立花孝志(たちばな・たかし、1967年生まれ)は元NHK職員で、"NHKをぶっ壊す!"のスローガンで知られる異色の政治家である¹。2015年に千葉県船橋市議会議員に初当選して政界入りし、その後東京都葛飾区議を経て、2019年7月の第25回参院選でNHKから国民を守る党(現NHK党)から比例代表で国政初当選を果たした²。
参院議員在職期間はわずか3か月で、自身の任期(6年)を残したまま同年10月に埼玉県選挙区補欠選挙に立候補するという前例のない決断を行い、自動失職した³。これは「残り任期約6年の参議院議員を退職して、残り任期約3年の参議院補選に立候補する珍事」と報じられ、周囲を驚かせた⁴。
補選は落選したものの、参院比例で繰上当選した浜田聡氏に議席を引き継がせて党勢を維持し、自らは党首として対外発信に専念した⁵。彼の所属政党は当初「NHKから国民を守る党」と称し、国政政党要件を満たした2019年以降は公党として活動。党名は抗議活動や話題作りのため度々変更され、2023年には一時「政治家女子48党」と改名して話題を呼んだ(のちに再度「NHK党」に復称)⁶。
立花氏は2023年3月、党所属議員だったガーシー氏の除名事件を受けて党首を引責辞任し、党代表を大津綾香氏に譲るも、直後に党運営を巡って大津氏と対立して除名・復権劇が起こるなど内紛も経験した⁷。在職中の国会役職は特になく、党内では一貫して代表者(党首)を務め、現在も事実上の党の顔である。
分析対象期間は2015年から2025年6月までで、本レポートでは立花候補の公約・政策とその実績、国会活動や言動、政治資金やメディア戦略などを網羅的に検証し、有権者がその歩みを立体的に理解できるようまとめる。
立花孝志氏の政治姿勢は、一貫して「NHK問題」が軸にある。直近の2022年7月参院選(第26回参議院通常選挙)に際して公表された選挙公約を分析すると、その中心にNHKスクランブル放送の実現(受信料を払った人だけ視聴できる暗号化放送)と年金受給者のNHK受信料無料化が据えられていた⁸。
実際、NHK党の公約要旨では「NHKの受信料を支払った人だけが放送を視聴できるスクランブル化の実現を目指し、年金受給者の受信料無料化の導入も提案する」と明記されている⁹。これは彼がNHK集金人の強引な契約取り立てなどを問題視し、NHK受信制度の改革をライフワークとしてきた流れを汲むものだ。
もっとも、公約はNHK一本槍ではなく、他の政策分野にも言及している。憲法改正の国民投票実施を支持し「憲法改正論議を積極的に促す」「通年国会の導入」を提案⁸。安全保障では「中国・ロシア・北朝鮮は脅威」と位置付け、防衛費をGDP比2%へ増額し「敵基地攻撃能力は必ず保有すべき」とし、さらには核共有や核武装の議論にも言及した¹⁰。
エネルギー政策では原発の再稼働推進と位置づけ、安全が確認された原発の活用や、日本の高効率な石炭火力発電所を海外輸出して温室効果ガス抑制につなげるといった独自色のある主張も掲げた¹⁰。
コロナ禍を踏まえた提言として感染症対策の司令塔組織の創設や外国人観光客の受け入れ拡大、屋外でのマスク着用緩和も盛り込み、経済面では社会保険料の引き下げや消費税減税を求めると訴えている¹¹。さらに被選挙権年齢の引き下げ(若者の政治参加促進)にも触れており、全体として小政党ながら国家像や社会像に踏み込んだ多岐にわたる政策を掲げていた。
選挙公報テキストの頻出キーワードを分析すると、やはり最多は「NHK」および「受信料」「スクランブル」で、次いで「改正」「国民」「提案」「議論」「防衛費」「原発」「減税」などが上位に現れる傾向があったと推察される(実際、公約文中に「NHK」は繰り返し登場し、「提案」という言葉も各項目で多用されている¹²)。
これらから読み取れるのは、立花氏がNHK問題を筆頭に据えつつ、保守色の強い国家観(憲法改正・防衛力強化)や経済的な国民負担軽減策(減税や社会保険料カット)を組み合わせ、有権者にアピールしている姿である。
スローガン的には「NHKをぶっ壊す!」が代名詞だが、公約全体を見ると必ずしも単一争点だけではなく、国政政党としての体裁を整えるため幅広い政策を掲げていることが分かる¹³。ただ、その中でもNHK関連施策に最も具体性と熱量が感じられるのは明らかであり、実際に彼は当選後も「議員会館にテレビを設置してNHKと受信契約した上で不払いを宣言する」といったパフォーマンスを行い、自身の公約を体現してみせた¹⁰。
公約のキーワード上位には現れにくいが、立花氏の政治スタイルを象徴するのがこの直接行動的な手法で、議会内外で常識にとらわれない実践を行うことで政策の注目度を高める狙いがうかがえる。