自由民主党所属の衆議院議員、加藤勝信(かとう かつのぶ)氏は、岡山県第3区選出(旧岡山5区)で当選8回のベテラン政治家です¹。1955年11月22日生まれ、東京都出身の加藤氏は東京大学経済学部を卒業後に大蔵省(現財務省)に入省し、妻の父である故・加藤六月元農相の薫陶も得て政治家に転身しました²。
2003年の衆院選で初当選を果たし(比例中国ブロック)、以降一貫して政権与党の中枢で経験を積んできました³。2015年以降だけでも一億総活躍担当大臣、厚生労働大臣、内閣官房長官、自由民主党総務会長、さらに2024年からは石破内閣の財務大臣として再登板するなど、政府・党の要職を歴任しています⁴⁵。
分析対象期間の2015年から2025年6月15日まで、加藤氏はまさに安倍・菅・岸田・石破各政権の要として活躍し、日本の経済財政から社会保障、外交安全保障まで幅広い政策分野に関与してきました。本レポートでは、その10年間の活動を振り返り、公約と実績、発言や立法、党内外での動きについて事実に基づき包括的に分析します。
加藤勝信氏の直近の選挙(2021年10月の第49回衆議院議員総選挙)における選挙公報を紐解くと、スローガンとして掲げられたのは「一人ひとりの挑戦を後押しする国へ」という力強いメッセージでした。また公報の冒頭には「まっすぐに、まっとうに!」とのフレーズも記されており、政治姿勢として「誠実に真正面から取り組む」という加藤氏の信条がうかがえます。実際、公報には加藤氏の経歴紹介に続き、重点政策が5つの柱で示されていました⁶。その内容は以下の通りです。
新型コロナ対策に全力 – ワクチン接種の推進や医療提供体制の強化、事業と生活の継続支援など感染症から命と暮らしを守る施策
経済の再生 – デジタル化と成長戦略(Society 5.0の実現)による日本経済の立て直し
人の流れを地方へ – 子育て世代の視点に立ち、地方で活躍できる環境整備や地方創生
外交・安全保障の強化 – 防衛力の強化と経済安全保障の推進、日米同盟の深化など国家の安全基盤づくり
地元岡山のために – 「地域の安全・安心、経済活性化のため、コロナ対策や道路・河川等のインフラ整備などに取り組みます」と、地元インフラ整備への意欲
公約に頻出するキーワードを分析すると、「コロナ対策」や「経済」、「地方」、「子ども」、「インフラ」、「安全保障」といった語が上位に挙がりました。これらから、加藤氏の重点分野が①コロナ禍への対応と経済立て直し、②少子化対策や地方創生、③外交・安全保障の強化、そして④地元への具体的な貢献であることが読み取れます。実際、掲げた政策は幅広いですが、特に新型コロナウイルス感染症への対策と経済再生策は太字で強調され、公約全体の軸となっていました。
その一方で地元向け施策は「何でもやります」と受け取れる抽象的表現に留まっていたとの指摘もあり⁷、中央政界での経験豊富な加藤氏に対し有権者の中には「具体性に欠け物足りない」と感じる声もあったようです⁸。しかし総じて、公約からは官僚出身らしい政策通としての側面と、岡山の代弁者として地域を大切にする姿勢の両方がうかがえます。
2015年以降、加藤勝信氏は政府の閣僚や党要職としての活動が多く、自身が提案者となる議員立法の数はそれほど多くありません。それでも、国会提出法案のリストをひもとけば、この期間に加藤氏が提出者となった法案は数件確認できます。その中で最大の成果と言えるのが、2022年の「こども基本法」です。岸田政権下で創設された子ども家庭庁に関連し、「子ども真ん中社会」を目指す基本理念を定めたこの法案は議員立法として起草され、加藤氏は与党側の中心メンバーとして立案作業を主導しました⁹。
こども基本法案は超党派の合意形成に苦労しましたが、各党との粘り強い調整を経て2022年4月に国会提出に漕ぎつけます。加藤氏自身、党の会議で「子どもの健やかな成長を支える社会を作りたい」という熱意を繰り返し訴え、法案骨子のとりまとめに奔走しました¹⁰。その甲斐あって法案は6月15日の参院本会議で与野党の賛成多数により可決・成立し、戦後初めて包括的な子ども政策基本法が誕生しました¹¹。この法律制定により政府内に子ども家庭庁が設置され、子ども政策の司令塔が誕生したことは、加藤氏の立法者としての大きな勲章です。
また、遡れば第一次安倍政権期の2007年に政治資金規正法改正案を他の若手議員と提出した経歴もあります(第165回国会)。しかし2015年以降、特に自民党が政権に復帰してからの加藤氏は閣僚として政府提出法案の成立に尽力する立場が中心でした。例えば働き方改革関連法案(2018年)では、当時の働き方改革担当大臣から厚労相となった加藤氏が長時間労働規制と同一労働同一賃金の導入を含む改革の推進に関与し、その後厚労相として法案の成立に尽力しています¹²。
この法案成立により残業時間の罰則付き上限規制や非正規雇用の待遇改善策が実現し、加藤氏は「現場の声を丁寧に拾いながら妥協点を見つけ出す苦労があったが、大きな手応えを感じた」と当時振り返っています¹³。さらに同じく2017年末には政府の「新経済政策パッケージ」に関与し、3〜5歳児の全世帯と0〜2歳児の低所得世帯を対象にした幼児教育・保育の無償化の推進にも担当閣僚として携わりました¹⁴。これは少子化対策の重要施策であり、一億総活躍担当相として加藤氏が政策推進に関与したものです。
一方、近年の国会では他にも「こども家庭庁設置法」(政府提出)や「経済安全保障推進法」(2022年)、防衛費財源確保関連法(2023年)など重要法案が次々審議・成立しましたが、加藤氏はいずれも閣僚または与党幹部の立場でこれらを支える側に回りました。特に防衛費増額の財源を巡る法案では、自民党税制調査会小委員長でもあった経験から増税メニューの検討に関与し、法人税・たばこ税・所得税の一体的な増税案策定に発言力を持ったとされています。法案自体は党内調整に難航しましたが、最終的に2023年度中に関連法が成立し、防衛財源問題に一定の道筋を付けました。