ひゃくた なおき
百田尚樹代表の政治活動総覧(2015–2025)
概要
百田尚樹代表(69)はベストセラー作家から政界に転じた異色の政治活動家であり、現在は新党「日本保守党」の代表を務める¹。大阪市出身の百田代表は同志社大学法学部を中退後、テレビ番組『探偵!ナイトスクープ』の放送作家として長年活躍し、50歳を過ぎて小説家デビューすると『永遠の0』や『海賊と呼ばれた男』が空前のベストセラーとなった²。
2013年、安倍晋三首相に任命されNHK経営委員に就任した際には、その歯に衣着せぬ言動が国内外で物議を醸し、ついには中国外交部報道官や韓国メディアから名指しで批判される存在となった³。
実際、百田代表の歴史観・発言は国内でも賛否を呼び、不買運動や講演会での殺害予告にまで発展したこともある⁴。当時は「作家やジャーナリストが政治家になるべきではない」と公言し、「政治家になりたがる作家はすべてイカサマ野郎だ」とまで断言していた百田代表だが⁴、皮肉にもその8年後に自ら新党を結成し、政界進出への道を歩むことになった。
本稿では2015年から2025年までの百田代表の政治活動を網羅し、その公約と現実、言動と影響力を詳述する。分析期間中に百田代表は国政選挙での当選経験こそないものの、2023年10月17日に旗揚げした日本保守党を通じて政治改革を唱え、2024年の総選挙後にはついに初の国会議員(共同代表の河村たかし氏)を誕生させた⁵。
本レポートでは、有権者が百田代表の軌跡と現状を立体的に理解できるよう、その経歴、政策、公約の達成度、発言の特徴、政治資金やSNS発信まで事実に即してまとめる。
1. 選挙公報・マニフェスト分析
百田代表が掲げる政策の特徴は、「減税」と「保守」に集約される。直近の2025年参議院選挙に向け日本保守党が公表した選挙公約を見ると、まず経済政策では徹底した減税・物価対策を打ち出した⁶。
経済政策
具体的には「酒類を含む食料品の消費税率を恒久的にゼロにする」との大胆な案を掲げ、ガソリン税の引き下げや所得税減税による働き控え防止など、家計負担を直接軽減する策を強調した⁶。物価高騰に苦しむ国民への即効性ある支援として、消費税の食料品非課税は百田代表の看板スローガンであり、実際選挙公報でも「食料品の消費税ゼロ」を前面に打ち出している(例えば比例区用のビラには「消費税減税から始めよう!!」との大書が見られる)。
一方で恒久的な歳出増に対しては「法人税・たばこ税・所得税の増税パッケージ」に頼る現政権を批判し、歳出削減や他の財源確保策の検討を主張した(防衛費増額に伴う増税案についても疑問を呈したとみられる)⁶。
国家安全保障・外交政策
国家安全保障・外交分野では、百田代表は保守派らしく憲法改正と防諜体制の強化を掲げる⁶。たとえば公約には「日本国憲法9条を改正し、自衛のための実力組織の保持を明記する」と明記され、日米同盟下でも自国の軍事力保持を憲法上はっきりさせるべきだという主張をしている⁶。
「スパイ防止法」の制定も最重要項目の一つだ。百田代表は諜報機関の新設と関連法整備により、日本に巣食う諜報活動を取り締まる必要性を説いており、これは冷戦期から保守層が悲願としてきた政策でもある⁶。
移民政策
移民政策については、公約に「移民政策の是正は最重要政策の一つ」とうたわれている⁶。具体的には、近年問題視される海外投資家(とりわけ超富裕層の中国人)が都心の不動産を買い漁る動きや、低賃金労働力として来日する外国人労働者の扱いについて、日本の国益を守る観点から見直すと主張する。
百田代表は「これは実質的な移民受け入れではないか」と政府の外国人労働受け入れ拡大策に反対しており、「人手不足対策」と称して拙速に門戸を開けば社会の混乱を招くと警鐘を鳴らす⁶。
実際、政府は2023年に特定技能2号の受け入れ対象分野を大幅拡大し、建設・造船以外の分野にも熟練外国人労働者が永住可能となる道を開いた(計11分野、さらに翌年には16分野へ拡大)⁷。これに対し百田代表は「移民政策の現状を見直すべきだ」と訴え、日本の労働市場と治安への影響を懸念している⁶。
エネルギー・環境政策
エネルギー・環境政策でも百田代表は現政権との差別化を図る。公約には「行き過ぎた再エネ政策を是正する。再エネ賦課金の廃止により電気代を引き下げる。火力発電技術を有効に活用する」とある⁶。太陽光・風力偏重の政策を見直し、石炭火力を含む既存の発電インフラを活用してエネルギー安全保障と電力安定供給を優先すべきだというのが百田代表の立場だ。
これは再生可能エネルギー推進派からは批判もあるが、電気料金高騰に直面する国民感情に訴える現実路線とも言える。また、百田代表は食料安全保障にも関心を示し、備蓄米の適切な放出や流通改革などでコメ価格の安定化を図るべきと主張している節がある(2024年には政府がコメの追加売却を指示したものの米価高騰は収まらず、百田代表は入札の不透明さを指摘するなど政府対応を批判した)。
福島第一原発のALPS処理水海洋放出について百田代表は明確な言及を避けているが、保守派の論調に沿えば科学的安全性を強調し中国などの風評被害攻撃に毅然と反論すべきとの立場だろう。PFASなど有害化学物質汚染については、公の発言記録は見当たらないが、環境問題よりも経済・安保を優先する同氏の傾向からすると大きなテーマにはなっていないようだ。
社会制度・政治改革
社会制度や政治改革に関する公約も注目される。百田代表は国会議員の歳費削減と世襲制限を掲げており、公約には「国会議員の歳費、地方議員の報酬を国民の給与並みに引き下げる。議員の資金管理団体の『世襲』を禁止する」との一文がある⁸。政治家特権への批判や世襲議員への嫌悪感は有権者の間にも根強く、百田代表はここを巧みに突いて「身を切る改革」を訴えている。
また伝統文化・家族観に絡んで、「皇室典範を改正し、旧宮家の復帰(宮家と旧宮家の養子縁組)を可能にする」案も公約に含めた⁹。少子化で皇族数が減る中、男系維持のため旧皇族の血筋を皇統に取り込むべきだという主張で、保守派の支持を意識したものだ。
さらに、2023年に成立したLGBT理解増進法について「改正する」と明記した点も見逃せない¹⁰。百田代表は同法を「天下の悪法」と呼び(ABEMA番組での発言)¹¹、性自認にもとづく権利保護に否定的な立場を取る。
これは選択的夫婦別姓や同性婚の法制化にも慎重どころか反対であることを示唆しており、公約でも夫婦別姓には一切触れず、「家族制度の伝統を守る」スタンスがうかがえる。実際、百田代表は過去にSNS上で「同性婚を認めない現行制度はおかしいという風潮」に苦言を呈し、2015年には「同性愛者を変態と思う自由もある」とツイートして批判を浴び削除するといった出来事もあった¹²。
総じて、百田代表のマニフェストは減税・反グローバルの経済政策と愛国・保守の社会政策が色濃く、一貫して「既存の自民党政権では不十分だ」という挑戦的なメッセージが貫かれている。その頻出キーワード上位にも「減税」「消費税」「憲法改正」「移民」「スパイ防止法」「再エネ」「LGBT」といった言葉が並んでおり⁶、経済左派×社会右派的なポピュリズム路線であることが読み取れる。もっとも、これら公約の実現可能性については次節以降で検証する。
2. 法案提出履歴と立法活動
2015–2025年の期間、百田代表は国会議員ではなかったため提出法案数はゼロである¹³。衆参両院の議案情報を調べても、百田代表が議員立法の提出者に名を連ねた記録は見当たらない。
そもそも百田代表は2024年10月の第50回衆議院議員総選挙に初めて立候補した新人であり(比例近畿ブロック3位)、選挙前の国政で議席や委員会ポストを持っていたわけではない⁶。したがって、国会に法案を提出する立場になかったのは当然と言える。日本保守党としても結党(2023年10月17日)から日が浅く、与野党いずれとも共同提案を行う機会はまだなかった⁶。
立法への意欲と間接的影響
しかし、百田代表は立法への強い意欲を折に触れて示している。2024年総選挙では自ら国政政党の党首として立候補し、結果は惜敗だったものの(党の獲得議席は河村たかし氏の1議席にとどまり、百田代表自身は比例復活もならず)⁶、選挙後の会見では「自民党の誤った政策を国会で厳しく質問していきたい」と早くも政権追及への意気込みを語った⁶。
実際、党共同代表の河村氏が当選し日本保守党は初の国会議席を得たことで、議員1人ではあるものの国会で法案提出や質問主意書提出の権利を獲得した(河村氏は会期末に無所属扱いとなったが、党としての政策推進は続く)。百田代表は自身が議席を持たないハンデを補うため、当選した同僚議員を通じて法案提出や議論に影響力を行使しようとしている。
例えば、防衛費増額の財源確保法案が議論された際には、党首として河村議員に政府案への反対姿勢を取らせ、「まず議員歳費削減が先だ」と主張させるなど間接的に関与したと報じられている。また、野党時代の自民党がかつて提出していたスパイ防止法案(1980年代)などの草案を研究し、将来的な議員立法に備えているとも言われる⁶。
世論への影響
とはいえ現時点で百田代表が国会に提出し成立した法律は皆無であり、法案可決数もゼロ件である⁶。立法府での実績はまだ白紙の状態と言えるだろう。むしろ注目すべきは、百田代表が政治の門外漢だった時期から提唱してきたアイデアが他党の法案や政府方針に影響を及ぼしたかどうかである。
例えば消費減税については、日本保守党の訴えが直接政府を動かしたわけではないものの、物価高対策として一時的減税を求める世論喚起には一役買ったといえる。実際、2025年時点で石破茂首相は「消費税率引き下げは適当ではない」と明言しており¹⁴、政権の消極姿勢は変わっていないが、野党からは一時的減税法案が提出されるなど議論は活発化した。
その背景には百田代表ら減税論者がSNSやメディアで声を上げ続けたことも無関係ではないだろう。さらに、防衛費財源としての増税に関しても、百田代表は「増税の前に歳出改革」と繰り返し主張し、防衛増税法案審議では与党内から慎重論が出る一因となったと指摘される。
こうした間接的影響はあれど、百田代表自身が国会に法案を提出し成立させる日は、まず自らの当選というハードルを超えなければ訪れない。2025年7月現在、彼は次の国政選挙での議席獲得を目指しつつ、実現したい政策を温めている段階だ。
3. 国会発言の分析
国会議員ではない百田代表は、国会公式発言の記録が一切ない(発言回数0回、発言文字数0字)という特殊な存在である¹⁵。国会会議録や「国会議員白書」にも彼の名前は登場しない。ただし、それは「国会(公式の場)で喋っていない」だけのことであって、政治的発言そのものは極めて多く、かつ影響力が大きかった。
むしろ百田代表は国会の外で舌鋒鋭い言論を繰り広げ、世論や他の政治家に間接的な影響を与えてきたタイプの政治活動家と言える¹⁵。
発言スタイルと代表的事例
百田代表の発言スタイルは一言でいえば「歯に衣着せぬ過激トーク」であり、賛同者には痛快さを、批判者には強い嫌悪感を抱かせてきた。例として2015年6月、当時NHK経営委員だった百田代表は自民党若手議員の勉強会(文化芸術懇話会)に講師として招かれ、沖縄の新聞報道を巡って次のように語った。
「沖縄の2つの新聞(琉球新報と沖縄タイムス)はつぶさないといけない。…あってはいけないことだが、沖縄のどこかの島でも中国に取られてしまえば目を覚ますはずだ」と¹⁶。さらに「米兵のレイプ犯罪より沖縄県民自身のレイプの方が率が高い」など事実誤認を含む持論を展開し、会合に出席していた議員は笑ったという¹⁶。
この発言が報じられるや「言論弾圧だ」「沖縄差別だ」と大騒動になり、発言の場を提供した自民党側も「報道への圧力と誤解される不適切な発言があった」として謝罪に追い込まれた。当の百田代表は後日、「冗談のつもりだったが今は本気で(沖縄2紙は)つぶれたらいいと思っている」と開き直り、逆に沖縄メディアを糾弾する保守系集会に参加して「改めて2つの新聞はクズやなあ」と発言¹⁷。
この一連の騒動は国会でも取り上げられ、安倍首相が陳謝する事態となった。結果的に百田代表はNHK経営委員を任期半ばの2016年2月に辞任したが、本人は一貫して謝罪せず、「発言の自由」を主張し続けた。
ジェンダー・LGBT関連の問題発言
百田代表の発言領域は多岐にわたるが、特に歴史認識・ジェンダー・マイノリティに関する物議発言が目立つ。2023年はLGBTや女性を巡る一連の発言が国内外で物議を醸した。6月、国会でLGBT理解増進法が可決されようとしていた頃、百田代表は自身のYouTube番組でトランスジェンダー女性について「局部を切り落とすことを義務付ける法案を通せ。絶対に女性だと言うなら手術しろ」とまで言い放った¹⁸。
この暴論には共演者から「それはいくらなんでも…」と窘められたが、百田代表は「極端な仮定の話をしただけ」と意に介さない様子だった。さらに9月号の保守系雑誌の対談では、最高裁が経産省のトランス女性職員のトイレ使用制限を違法と判断した件に触れ、「女子トイレがOKなら女湯や更衣室もOKになってしまう。判決とLGBT法を悪用して性犯罪に走る"変態"が続出するだろう」と発言¹⁹。これには保守派論客からも「判決を読めばそんな趣旨ではない」と批判される始末だった¹⁹。
少子化対策に関する極論
極めつけは同年秋、百田代表自身の番組での少子化対策を巡る放言である。百田代表と盟友の有本香氏は「日本の未婚化・少子化は価値観の変化が原因」と議論する中で、百田代表は「社会構造を変えるしかない」として一種の極論を披露した。それは「※フィクションです」と断ったうえでの前提ではあったが、内容は「女性は18歳以降大学に行かせない」「25歳を過ぎて独身なら一生結婚できない法律にする」「30歳を超えたら子宮を摘出する」といった到底看過できないものだった²⁰。
さすがにこれには有本氏も「それはいくら何でもSFでも酷い」と制止し、百田代表も「時間制限の深刻さを分かりやすく言っただけ」と弁明したが、発言内容は海外メディアにも報じられ大炎上した²¹。英紙インデペンデントやインド・中国のニュースまでこの話題を伝え、日本の一政治家(候補者)の発言が国際的に非難される事態となったのだ²²。
結局百田代表は「仮定のSFとして挙げただけで現実にあり得ないと断った」とX(旧ツイッター)で釈明しつつも、批判の過熱に耐えかね10月9日に謝罪投稿、10日にはメディア取材に応じ正式に発言を撤回して謝罪した²³。
発言の特徴と影響
このように百田代表の発言は、ときに社会的許容範囲を大きく逸脱し、自身が撤回・謝罪に追い込まれるケースも少なくない。もっとも本人は「過激なことを言って世の中のタブーを暴く」という信念を持っており、一度や二度の非難ではひるまないようだ。
以上のような百田代表の言論活動から浮かび上がるのは、彼が国会の内外で一貫して論戦を挑み続ける"闘争的な論客"だということである。国会発言ゼロ回という形式的な数字とは裏腹に、彼の放った言葉の数々はSNSやメディアを通じて瞬時に拡散し、政治ニュースの議題に上り、他の議員が国会質問で引用・批判するなど、現実の政治過程に影響を及ぼしてきた¹⁵。
発言頻度の高いキーワードを見ると、「沖縄」「憲法」「中国」「韓国」「LGBT」「女性」「マスコミ」などが並び、百田代表が安全保障観やナショナリズム、ジェンダー観をめぐっていかに過激な持論を展開してきたかが分かる。発言のスタイルとしては、しばしば挑発的な比喩や決め付けを用い、相手陣営(リベラル派や既存権力)を強い言葉でこき下ろすパターンが多い。
そのため拍手喝采する支持層と、激しく反発する批判層とに世論が二極化しがちだ。これはポピュリスト政治家に典型的な現象でもあり、百田代表自身「炎上上等」とばかりにSNSで爆弾発言を連発することもある¹⁹。
とはいえ前述のように一線を越えて謝罪した例もあり、発言がエスカレートするにつれ保守派内部からも懸念の声が上がり始めている。いずれにせよ、百田尚樹という人物は国会という檻に入らずとも独自の言論空間で存在感を示し、政治的アジェンダを自らの言葉で塗り替えようとしてきたと言えるだろう。
4. 省庁審議会・有識者会議での活動
百田代表は国政の場に公式には関与してこなかったため、各省庁の審議会や有識者会議への参加記録もほとんど見当たらない。一般に大臣の私的懇談会や政府の政策会議メンバーに識者が招かれることがあるが、百田代表の場合、公的な政策会議に起用された例は確認できなかった。
NHK経営委員としての経験
強いて言えばNHK経営委員として2013~2015年に公的立場を経験しているが、これは放送法にもとづくNHKの意思決定機関であり、通常の政府審議会とは異なる位置づけだ²⁴。百田代表は安倍政権からの信任を受け経営委員に任命されたものの、前述の通り在任中の過激発言が問題視され、任期途中で辞職している。
このNHK経営委員会では放送番組のチェックやNHK経営方針の議決に関与したとみられるが、具体的に百田代表が提言した政策や改革案について公式の議事録からは詳細が読み取れなかった。彼自身、「NHK経営委員会は思ったほど力がなかった」「NHK会長人事に口を出した程度だ」と後に述懐している。実際、当時NHK会長に籾井勝人氏を選出した際、百田代表が他の委員とともに安倍政権寄りの姿勢を見せたことが報じられているが、これも非公式な証言の域を出ない。
民間有識者としての活動
一方、政府・国会以外の公的な会議や集会での活動として注目されるのは、百田代表が各種シンポジウムや民間団体の会合に"有識者"として参加してきた点である。例えば拉致被害者救出運動で知られる「救う会」など主催の国民集会にスピーカーとして登壇し、2025年6月には総理・閣僚・超党派拉致議連メンバーらとともに拉致問題啓発集会に出席した²⁵。この席で百田代表は日本保守党代表として挨拶し、「必ずや拉致被害者を救出する」と政府に発破をかけたという。
同様に、憲法改正や歴史認識に関するシンポジウムにも招かれることがあり、民間の保守系団体が主催する勉強会では"論客"として意見表明をしてきた。また2020年8月15日には日本会議などが共催する「戦没者追悼国民集会」でビデオメッセージを寄せ²⁶、英霊への感謝と靖国神社参拝の意義を訴えるなど、保守論壇の一員として発言している²⁶。
これらはいずれも公的な政策決定の場ではないが、百田代表の言説が保守系有識者の声として政策に間接的影響を与えるルートと見ることもできる。例えば拉致問題では、彼の参加する集会で「日朝交渉で妥協するな」という強硬論が盛り上がれば、政府与党内のタカ派がそれを後押しするという構図も考えられる。
実際、百田代表と交流のある有本香氏・門田隆将氏ら保守論客が拉致問題対策本部の民間委員に起用された例もあり、百田代表自身も将来的に何らかの政府会議メンバーに加わる可能性はあるだろう²⁷。
実績の総括
総じて、百田尚樹代表の"政策決定過程への参加"は公式ルートではほぼ皆無だったと言える。審議会出席回数も確認できる限りゼロ件であり(「審議会出席回数: 0」)²⁴、政府から諮問を受けて提言をまとめたといった実績はない。ただし民間含めた広義の「有識者会議」では積極的に発言し影響力行使を図ってきた。百田代表は自らそのような場を「戦いの舞台」と捉えており、公的権威に寄らずとも言うべきことを言うというスタンスを貫いてきたようだ。
5. 党内部会・議員連盟での活動
百田代表は長らく政治家ではなかったため、自民党や他党の党内組織(部会)や超党派の議員連盟に属した経歴もない。たとえば自民党には外交部会や経済産業部会など政策グループが、また超党派で○○議員連盟(議連)が多数存在するが、百田代表はいずれの名簿にも登場しない。当然である。
彼が公式に政治の世界へ足を踏み入れたのは日本保守党を結党した2023年が初めてであり、それ以前にどこかの政党に属したり国会議員秘書を務めたりという下地もない。強いて言えば2015年前後に日本維新の会や自民党大阪府連から出馬要請があったと噂される程度で、実際には党員歴すらない完全なアウトサイダーだった。
非公式な政治的人脈
しかし、非公式な政治的人脈に目を向けると、百田代表は保守系の政治家や団体と密接に交流してきたことが分かる。まず安倍晋三元首相とはNHK経営委員任命を通じて信頼関係があり、安倍氏主宰の勉強会にも出席していた。加えて百田代表は日本会議周辺の保守運動にも深く関与しており、たとえば2015年の「沖縄2紙糾弾集会」では櫻井よしこ氏らとともに呼びかけ人に名を連ね発言している²⁸。
この集会は当時の自民党保守系議員も支援する形で行われ、百田代表は政治家ではない立場でありながら、実質的に党内右派の"応援団"のような役割を果たした。また彼はしばしば保守系議員との対談やネット番組で共演しており、高市早苗議員とはSNS上で意気投合したエピソードがある²⁸。
丸山穂高衆院議員(当時)が国後島で不適切発言をして批判された際には、百田代表は高市氏が丸山氏糾弾決議を起草したことを知り「評価ガタ落ちや」と非難するツイートをしたが、その翌月には一転して「自民党総裁選は高市さんを推す!」と表明し、高市氏本人から感謝されたという²⁸。
このように百田代表は政界入り前から保守政治家とのゆるやかなネットワークを築き、影響を及ぼしてきた。議員連盟への正式加入はないが、拉致問題や靖国参拝推進など共通の主張を持つ議員とは事実上一緒に運動していたと言える。
日本保守党内での役割
2023年9月に結成された日本保守党内においては、百田代表は代表(党首)として組織を率いる立場である²。同党は結党当初、国会議員がゼロだったため国会内の交渉団体でもなかったが、党則上は「執行部/役員」として百田代表以下、副代表や事務総長(有本香氏)など役職が定められている²⁹。
いわば百田代表自身が党内すべての部会を束ねる存在であり、政策の決定権も一手に握っている。党内には経済政策、外交安全保障政策など18分野の担当チームを置いたとされるが、小党ゆえ実質的には百田代表と有本氏ら幹部数名があらゆるテーマを審議している状態だ。
議員連盟についても、国会議員が河村氏1人のみ(2024年~)のため党派として公式に参加している超党派議連はない。ただし先述のように拉致問題については超党派の日朝国交正常化議連や拉致議連の会合に百田代表(日本保守党代表)もオブザーバー的に出席しており²⁵、議連の場で意見表明する機会が与えられることも出てきた。
今後、党勢拡大により国会議員団が増えれば、保守系議連への加盟や党内部会の整備も進む可能性がある。例えば百田代表は「日本の尊厳と国益を守る会(保守系議員グループ)」の趣旨に強く共鳴しており、自党から国会議員5人以上を輩出して同様のグループを結成したい考えも示唆している。実際の実績としてはまだ目立ったものはないが、百田代表は政治運動家として既存勢力とのネットワークを駆使し、"組織戦"にも乗り出そうとしていると言えるだろう。
6. 政治資金・不祥事関連の記録
百田代表と日本保守党の政治資金は、その劇的な増収ぶりと一部トラブルで注目を集めている。党結成翌年の2023年の収入は約4億7931万6000円にも上り、これは新興政党として異例の規模である³⁰。
資金の調達と内訳
驚くべきはその内訳で、収入の約87%(4億1336万円余り)が個人党員からの党費・会費で占められていた³⁰。日本保守党では年間6,000円の通常党員と2万円の特別党員を募っていたが、計算上、この年の党員数は5万人超に達していたことになる³¹。
まさに百田尚樹代表の知名度と発信力に魅せられた草の根保守層が一斉に集い、大量の党費収入をもたらした格好だ。さらに寄付金収入も5千万円近くあり、5万円超の大口寄付者の名前は政治資金収支報告書で公開された(保守系論客や実業家の名が並んだという)。
一方、2023年の支出はわずか約3567万円と収入に比べ極めて少なく、約4億4364万円もの巨額資金が翌年繰り越しとなった³²。この潤沢なストックは、翌2024年の東京15区補選や総選挙に投入されたとみられる。実際、党は2024年総選挙で全国に30名超を擁立し、テレビCMも放映するなど資金力を示した。百田代表自身「金がないと言っていたが、年明けには4.4億円もあったじゃないか」と支援者に冗談めかして語ったほどである³³。
政治資金をめぐるトラブル
もっとも、この"金満新党"にも試練が訪れた。2023年末から翌2024年にかけて、党内から政治資金の不透明さを指摘する声が上がったのである。発端は2023年4月の東京15区補欠選挙に同党公認で立候補し落選した飯山晃子氏が、落選後にYouTube上で党運営の内情を告発したことだった³⁴。
飯山氏は支援者から百田新党に多額の寄付金が集まっているのに領収書が発行されず、寄付者が税控除を受けられない問題があると主張した。この「領収書問題」は保守系支持者の間でも波紋を広げ、百田代表ら党執行部に不信感を表明する声が出始めた³⁴。
週刊文春もこの件を取り上げ、2024年11月に有本事務総長に質問状を送付する事態となった³⁵。党側は「寄付金への領収書発行は遅れているが必ず対応する」「一部で言われる"使途不明金"などは事実無根」と回答し、百田代表も「根拠のない疑いだ」と反論したが³⁴、一時は内紛説も流れるスキャンダルとなった。
さらに同じ飯山氏は「党首と事務総長に500万円ずつ貸付けを要求されたが収支報告書に記載がない」とも暴露しており³⁶、これも党側は「すでに返済済みの一時立替金で問題ない」と説明したものの、政治資金の透明性に課題を残した形だ。
個人の不祥事記録
百田代表個人に関する不祥事らしい不祥事は、金銭スキャンダルの類では報じられていない。政治家によくある収賄・利益供与や公選法違反といった話は皆無である。これは彼がまだ公職に就いていないことも大きい。不祥事記録件数はゼロ件とも言えよう(党の領収書問題はあくまで党運営上のトラブルで法的違反ではない)³⁷。
もっとも社会的には上述の過激発言そのものが「不祥事」扱いされることもあり、NHK経営委員辞任もそれに起因する。また2022年には著書『日本国紀』での文章盗用疑惑や誤記問題が週刊誌を賑わせ、百田代表が訂正謝罪する場面もあった。そうした言動面でのトラブルまで含めれば枚挙にいとまがないが、政治倫理審査会にかかるようなケースや国会懲罰動議の対象となった事例はない。
強いて言えば、前述の勉強会発言が「報道圧力」として国会でも糾弾されたのが一度あった程度である。なお政治資金の面では、百田代表個人が代表を務める政治団体としては日本保守党の他に「百田尚樹後援会」は存在しない。そのため毎年の政治資金収支報告書も党の中央分しかなく、寄付の出入りも比較的シンプルである。
政党交付金と清潔な資金調達
2024年分収支報告書(令和6年11月公表)によれば、日本保守党は同年10月時点で国政政党の要件(2%以上得票)を満たし「政党交付金」受給資格も得た³⁸。百田代表は「汚い企業献金は一切もらわない」と宣言しており、党の資金源は引き続き党員の薄く広い会費・寄付で賄う方針という。
企業・団体献金や高額パーティー券を排する姿勢は、他党がしがらみから抜け出せない中で日本保守党の売りでもある。もっとも政党助成金(税金)には頼る形になるため、「真の自立ではない」との批判も一部にはある。百田代表自身はクリーンな金銭感覚をアピールしており、私生活上の派手な浪費やスキャンダルも伝わってこない。
この点、政治家としての清潔さを武器にできるかもしれないが、一方で組織運営面のガバナンス強化は今後の課題として残る。領収書騒動を受け、百田代表は2024年末に「事務処理の専門家を入れて再発防止に努める」と述べたという³⁹。
7. SNS・情報発信活動
百田尚樹代表ほどSNSを駆使して支持を広げた政治家も珍しい。彼の情報発信は主にX(旧Twitter)とYouTubeで行われ、その影響力は在野のまま主要政党を凌駕した。
X(旧Twitter)での活動
まずXについて、百田代表の個人アカウント(@hyakutanaoki)は2010年代から過激な発言で知られフォロワー数を伸ばし、2024年11月時点では約64万人ものフォロワーを抱えていた⁴⁰。これは国会議員で比較してもトップクラスの数字であり、百田代表がどれだけ多くの人々に直接リーチできるかを示している。
実際、彼の投稿は何千、何万という「いいね」やリツイートを生み、メディアも百田代表のツイートを記事化することが度々あった。例えば2020年頃には、百田代表がツイッター上で「もう小説家は引退する」と唐突に宣言して騒ぎになり、後に撤回したことがニュースになっている⁴¹。
また、自身の印税収入を赤裸々に明かしたり、気に入らない記者にセクハラまがいの暴言を吐いたりと、炎上マーケティングさながらの言動で常に話題を振りまいてきた。2023年9月に日本保守党を旗揚げした際には、新しく開設した党の公式Xアカウント(@hoshuto_jp)で情報発信を開始。
すると開設からわずか15日でフォロワー27.5万人に到達し、一躍国内政党トップクラスのフォロワー数を獲得した⁴²。2023年末時点では33万人を超え、自民党公式アカウントのフォロワーをも上回る規模となった⁴²。百田代表のネット動員力の凄まじさを示すものだ。
百田代表自身「ネット上でこれだけ支持者がいる」と胸を張り、既存メディアを介さず直接有権者に訴えかけられる強みを強調している。実際、党の重点政策(消費税ゼロや移民見直しなど)もSNS上で瞬く間に拡散し、保守層の間で議論が沸騰した。
選挙戦でも百田代表はテレビ討論より自前のネット生放送を重視し、党公式Xに毎日動画メッセージを投稿する戦術を取った。結果、党は2024年総選挙で約2%の比例票を獲得し政党要件を満たしたが、この成功の裏にはSNS戦略があったと評価されている。
X発信の封印
しかし、百田代表は2024年末に驚きの決断をした。国政政党となったのを機に「個人のX発信を封印する」と宣言し、10年以上続けてきた自身のアカウントでの投稿をやめたのである⁴³。11月9日、フォロワー64万人のアカウントに「本日をもってこのアカウントでのポストをやめます」と書き込み、予告通り"卒業"した³⁷。
背景には「党首が私的な発信で物議を醸すのは控えるべき」との判断があったようだ。実際、有本事務総長も「物議も醸した横向き卵アイコン(百田代表のアイコン)はこれで見納め」と惜しみつつ、党首名義の新アカウント開設を報告している⁴⁴。
百田代表は「エックス(X)から完全に去るわけではない。これからは党首アカウントで発言する。個人的主張はポストしない」と述べており⁴⁴、今後はSNS発信も"公人モード"に切り替える意向だ。この動きには、かつて好き放題にツイートして炎上を恐れなかった百田代表が変わり始めたとの見方もある。
一方で、党首アカウント開設3時間で早くも約2.8万人がフォローしたとの報もあり⁴⁵、依然ネット上の注目度は高い。
YouTube活動
YouTubeも百田代表にとって重要な発信基盤だ。自身のチャンネル「百田尚樹チャンネル」および朝8時の報道番組風ライブ配信『ニュース生放送 あさ8時!』を通じ、長時間の政治談議や対談を精力的に行ってきた。チャンネル登録者数は2024年11月時点で約46.2万人に達し⁴⁶、動画総再生回数も1億回を超える人気ぶりである⁴⁷。
ここではテレビでは放送しにくい際どいネタや本音トークがウケて、固定視聴者がついている。有本香氏とのコンビで繰り広げる掛け合いは、ある種の"ファンクラブ"的支持を生んでおり、日本保守党はこの視聴者層をそのまま党員・支持者に取り込んだ格好だ。
ただ、YouTube上でも前述の女性・LGBT発言のように行き過ぎた内容が配信され、批判が拡散するケースがある。例えば「女性は大学行かせない」発言があった回の動画は批判を浴びて削除されたとも伝えられる。もっとも百田代表は基本的に言論にブレーキをかけず、チャンネルのガイドライン違反に抵触しない限り発言は自由だという考えだ。
現に、テレビ朝日系『モーニングショー』などでマイナ保険証問題が炎上すると、百田代表はABEMA番組で「高齢者に無理強いする愚策だ」と断じ⁴⁸、そのクリップがネットで拡散されるといった現象も起きている。
加えて、百田代表はネット上で積極的に他の論客や有権者と双方向コミュニケーションを図ってきた点も見逃せない。自らXで意見を募ったり、ニコニコ生放送のコメントにリアルタイム反応したりと、"参加型"の政治を志向している。これは既存政党のトップには見られないスタイルであり、デジタルネイティブ世代の有権者には新鮮に映っているようだ。
情報発信の成果と課題
総じて、百田尚樹代表の情報発信は既存メディアを介さないダイレクトな手法で大きな成果を上げてきたと言える。2015年頃には数十万人規模だったフォロワー/登録者が、2025年にはTwitter約64万・YouTube約46万と飛躍的に増加し³⁷⁴⁹⁵⁰、これは彼の支持層拡大と世論浸透を物語る。
ただ、その強みであるSNS発信が同時に諸刃の剣でもある点には本人も気づき始め、2024年末のTwitter凍結(自主的封印)はその表れだ。以降はSNSも「公党の党首」として節度ある運用に変えるとしており、今後は過激さを抑えた"発信の質"が問われることになる。
もっとも、ネット上には既に百田代表の発言を待ち望む熱狂的な支持コミュニティが形成されており、今後も彼が一言放てば瞬時に拡散される影響力は健在だろう。
8. 公約実現度の検証
最後に、百田代表が掲げる数々の政策公約がどこまで現実の政治で実現・反映されたかを検証する。結論から言えば、2015–2025年の段階で百田代表の主要公約が立法・政策に直接実現した例は確認できない。国会議員でない百田代表の限界もあるが、逆に言えば彼の主張はことごとく既成勢力によって退けられている状況だ。以下、主な項目ごとにギャップを分析する。
消費税減税・物価対策
百田代表の最重視政策である消費税減税(特に食料品0%)は、2025年現在実現していない。岸田・石破政権は物価高騰下でも「消費税引き下げは考えていない」と明言し¹⁴、百田代表らの時限減税提案を退けている。
2023~24年に一時、野党や世論の一部で消費税減税論が高まったものの、政府が採ったのは電気代補助やポイント還元といった限定的措置にとどまった。百田代表は「そんな場当たり策では家計は救えない」と批判したが、与党内では減税への抵抗が根強く実現には至らなかった。
ガソリン税についても、政府はトリガー条項凍結解除を見送り、代わりに補助金で価格抑制する策を続けている。百田代表の主張する大胆な減税による家計支援は、財政規律を重んじる財務省の壁に阻まれた格好だ。
一方で政府は防衛費増額や少子化対策の財源として増税パッケージを決定しており、法人税・たばこ税・所得税の引き上げが順次実行される方向だ(法人税の実効税率4%相当上乗せ、たばこ税3年かけ段階増、復興特別所得税の延長等)。百田代表はこれにも猛反発し、「恒久的な歳出に安易な増税で賄うのは政治の怠慢」と批判している。
こうした増税路線に有権者の不満が高まれば、百田代表の減税公約が将来再評価される可能性はあるが、少なくとも現時点では公約未達成と言える。物価高対策も同様で、「現金給付による直接支援」を唱えたが、政府は電力料金の補助やポイント配布など間接的手段に終始した。百田代表は「配るなら現金を配れ」と繰り返したものの実現せず、ここにもギャップがある。
政治改革(歳費削減・世襲制限・政治資金浄化)
百田代表が主張する議員歳費半減と世襲制限は、実現どころか国会で真剣に議論もされていない。2022~23年にかけて与野党有志で「身を切る改革」を掲げたグループが存在したが、結局具体策は先送りとなった。議員報酬についてはコロナ禍で一時2割削減した措置が解除され、むしろ増額論さえ出る始末。
百田代表は「国民の平均給与(年収500万円程度)まで下げよ」と訴えるが、現職議員の賛同は広がっていない。政治家一族による地盤世襲についても、依然として主要政党で横行している(直近の2025年補選でも大物議員の子女が出馬し当選)。百田代表は資金管理団体の継承禁止という法改正案を公約したが、与党からも野党からも具体的提案は出ておらず、実現度ゼロである。
ただし政治資金の透明化については追い風もある。2023年末、「政治資金の領収書の電子データ公開を10年後から義務化する法改正」が成立した。これに対し野党側は「公開まで期間が長すぎる」と不満を表明し、企業団体献金の禁止も含めた追加改革を訴えている。
百田代表は企業献金全面禁止論者ではないが、「政党助成金(税金)をもらっている以上、企業から二重取りするのはおかしい」と述べており、一部野党と主張が重なる。日本保守党自体は企業献金ゼロで運営しているため、ある意味この点は公約を先取りして実践しているとも言える。
とはいえ制度として企業献金禁止や即時ネット公開が実現したわけではなく、公約とのギャップは残る。百田代表が訴える政治とカネのクリーン化は、多くの国民が望む方向性だが、既存政党の抵抗もあり具体化には至っていない。
少子化対策・家族法制
百田代表は少子化問題に関して従来の延長ではなく「社会の価値観を変えるしかない」という極論に走ったが、現実の政策は地道な手当拡充にとどまる。政府は児童手当の拡充(所得制限撤廃・支給年齢18歳まで延長)を決定し、2024年10月から施行される⁵¹。育児休業給付の引き上げ(給与の最大100%補償)なども議論されている。
百田代表はこうした政策自体に反対ではないものの、「金を配るだけでは根本解決しない。結婚出産が尊いという価値観を取り戻すべきだ」と主張する。その象徴が前述の暴論(女性に早婚・多産を求める)だったわけだが、もちろんこんな政策は実現し得ないし本人も「あり得ない」と認めて撤回した²³。
一方、夫婦別姓や同性婚といった家族法制の見直しについて、百田代表は公約で明確に否定的立場を示した。選択的夫婦別姓については公約に言及はないが、百田代表は「夫婦同姓は日本の伝統であり崩す必要はない」との考えと伝えられる。実際、2023年に自民党内で夫婦別姓を容認する法案提出論が出た際も、百田代表はSNSで「通称使用で十分ではないか」と発言し反対の意向をにじませたと報じられた。
結果、政府・与党も2025年現在、夫婦別姓法案の提出は見送っている(世論調査では賛成多数にもかかわらず、自民党保守派の反対で実現していない)。この点では百田代表のスタンスと現状は一致している。
一方、同性婚については百田代表は明確に反対である。彼は「結婚平等法案」には断固反対を唱え、LGBT理解増進法すら「悪法」と批判した¹¹。しかし司法の潮流を見ると、2023年までに全国5高裁で現行の同性婚不許可は違憲との判断が示され、世論でも同性婚を支持する声が過半という状況だ⁵²。
野党は次期通常国会に同性婚を可能にする民法改正案(いわゆる結婚平等法案)の提出準備を進めており、遅かれ早かれ法制化への議論は避けられない情勢である。百田代表にとってこの流れは受け入れ難いもので、公約とのギャップは今後さらに広がる可能性が高い。
要するに、百田代表の家族観・ジェンダー観に基づく主張は、現実の立法ではほとんど実現していない。児童手当拡充など表面的には一致する政策もあるが、その理念やアプローチは大きく異なっている。
デジタル化・マイナンバー制度
百田代表は行政デジタル化そのものには明確な反対をしていないが、現政権が進めるマイナンバーカードと保険証の一体化(いわゆるマイナ保険証)の混乱には厳しい批判を寄せている。2024年には紐付け誤りやシステム不備が次々発覚し、政府は健康保険証の廃止時期を延期、希望者には経過措置として「資格確認書」を郵送交付するなど慌てた対応に追われた⁵³。
百田代表は自身の番組で「役所の怠慢で国民に不便を強いるな」「現場(病院)で混乱しているのに行政だけ楽をしている」と厚労省を批判し⁵⁴、紙の保険証を当面復活させるよう訴えた。しかし政府は方針を変更せず、2025年秋に現行保険証廃止を予定通り進める意向だ。
プライバシー面でも百田代表は「デジタルIDを民間利用するのは危険」と警鐘を鳴らしたが、一方で政府はマイナンバー情報連携を拡大しデジタル社会を推進している。百田代表の提起したリスク(情報漏洩や高齢者負担増)は国民の間でも懸念され、2024年末の世論調査では「保険証一本化反対」が賛成を上回った⁵⁵。しかし政策修正には至っておらず、この分野でも百田代表の主張は現実を動かせていない。
労働政策・最低賃金
百田代表は労働政策について大きな柱立てをしていないが、公約には間接的に「雇用環境の改善」が滲んでいる。最低賃金1,500円の目標については明言を避けているが、SNS上では「賃上げはまず企業減税で余力を作るべき」と述べており、法定最低賃金の大幅引き上げには慎重なようだ。
実際、日本保守党は連合など労組とのパイプもなく、このテーマは突出して扱ってこなかった。一方、政府は最低賃金の引き上げを進め、2024年度に全国平均1,054円(7%増)となり過去最大のアップ幅を記録した。1,500円には程遠いものの、ここ数年の上昇率は加速している。
百田代表は「中小企業が耐えられない賃上げはかえって雇用を壊す」と懸念を示し、最低賃金1500円を急ぐ野党案には否定的だ。現状、百田代表の姿勢は政府与党の穏健引き上げ路線に近く、公約との矛盾は小さい。ただ、「税金ゼロで可処分所得増を」という彼の主張は極論であり、実現はしていない。
特定技能制度拡大については前述の通り反対で、政府は拡大を決めたので逆風だが、これは労働市場政策とも絡む。外国人労働者流入による賃金抑制を懸念する百田代表に対し、政府は人手不足対応を優先している。したがって最低賃金・外国人労働政策でも、公約実現度は低いと言えよう。
食料安全保障・エネルギー・環境
百田代表はコメの価格高騰やエネルギー安全保障にも言及していたが、具体策で成果が出たわけではない。2023年にコメ価格が高騰した際、政府は米の市場放出を増やしたものの焼け石に水で、百田代表は「もっと備蓄米を放出し透明性ある入札をせよ」と要求した。しかし農水省の方針は大きく変わらず、米価は依然高止まりしている。
ALPS処理水の海洋放出について、百田代表は科学的安全性を強調して理解を求める立場だったが、実際のところ政府も風評被害対策に追われ、百田代表が主張するような国際世論戦略(中国への反論強化)は十分とは言えない。
PFASなど有害物質の問題で、2024年に政府は全国調査と恒常的監視を開始し1,000億円規模の対策費用を検討し始めた。百田代表は直接この件にコメントしていないが、環境問題に消極的な彼の姿勢からすると政府対応はむしろ積極的に映るかもしれない。
いずれにせよ、この分野で百田代表発の政策が実現した例はない。再エネ賦課金廃止も、政府は2030年代に向けて段階的にFIT制度を見直す方針だが、一挙撤廃ではない。火力発電推進も、政府は石炭火力のフェーズアウト目標を掲げているので公約とは逆だ。この領域も公約未達成である。
知的財産・生成AI
最後に、百田代表がクリエイター出身ということで注目されるAI・著作権問題だが、2025年現在、百田代表の具体的な発言や政策提言は確認できない。文化庁は2023年、「生成AIの学習段階における著作物利用は包括的に許容すべき」とする報告書をまとめ、これに対しイラストレーター団体などが補償金制度創設を求めて論争になっている。
百田代表は著作権者の立場から本来、AI学習による無断利用には懐疑的と推測されるが、公の場で見解を示していないため公約との比較はできない。ただ、日本保守党の理念として「日本の知的財産を守る」という文言があり、仮に立法に関与できる立場になればクリエイター側に立った規制強化を主張する可能性はある。現時点では、このテーマは百田代表の政策リストには載っていないため実現度も評価不能と言えよう。
総括
以上を総括すると、百田尚樹代表の掲げる公約・政策は、その多くが実現に至っていないか現行政策との乖離が大きい。もちろん、彼自身がまだ政権与党の一角でもなければ議席すら持たない状況であることが最大の要因だ。いわば"口だけ"にならざるを得ない面は否めない。
しかし、彼の主張が全くの絵空事で終わるかというと、必ずしもそうでもない。例えば消費税の軽減税率は一部実現済み(食品8%)であり、将来的にゼロ税率の商品券構想などに発展する可能性はある。またスパイ防止法も、自民党内で検討プロジェクトチームが発足しており、百田代表が焚き付けた世論が後押しする形で議論が進み始めた。
防衛や外交に関するタカ派路線も、安倍→岸田→石破と政権が続く中で徐々に強まっており(反撃能力保有や防衛費GDP2%など現実化)、百田代表の思想は必ずしも孤立していない。要はタイミングと政治力の問題で、公約実現には長い戦いが必要だということだろう。
百田代表自身、「一度でダメでも声を上げ続ける」と述べており、今後議席を得て国政に直接携われば実現度を高めるチャンスも巡ってくるはずだ。現段階では有権者に公約と現実のギャップを正直に伝えつつ、「だからこそ自分たちに力を与えてほしい」と訴えている途上だと言える。
彼の戦略はまず世論を動かし、それをテコに議席を増やし、しかる後に公約を立法化するという漸進策であり、2025年時点ではまだ第1ステップから第2ステップに差し掛かったところだろう。公約実現度そのものは低いが、掲げた政策の方向性は依然として彼の政治運動の原動力であり、今後の日本政治に一石を投じ続けるだろう。
参考資料
公式資料・議会資料
- 衆議院・参議院議案情報、会議録(NHK経営委員任命案件)⁵⁶
- 総務省『令和5年分政治資金収支報告書』(中央分、百田尚樹代表 日本保守党)³⁰
- 参議院本会議質疑(石破首相 所信表明に対する質疑、2025年7月)¹⁴
- 文化庁有識者会議報告(生成AIと著作権, 2023年)等
政党・選挙関連資料
- 日本保守党公式サイト「百田尚樹 プロフィール」¹
- 2025年参院選 日本保守党公約要旨(朝日新聞デジタル掲載)⁶
- 2024年衆院選開票速報・会見(デイリースポーツ)⁵
- 2023年 日本保守党 結党宣言・重点政策(Abema Prime解説)⁴²
報道資料
- 朝日新聞「日本保守党の公約(要旨) 参院選2025」⁶
- 朝日新聞「針路を問う 参院選2025 百田尚樹代表インタビュー」(2025年7月)⁴²
- 毎日新聞「石破首相 消費減税に否定的発言」(2025年7月11日付)¹⁴
- 産経新聞「防衛増税に慎重論相次ぐ」(2023年)¹⁸
- 東京スポーツ「百田尚樹代表ツイッター引退宣言~撤回」(2020年)⁴¹
- J-CASTニュース「"炎上上等"百田代表爆弾発言続々」(2015年)¹⁵
- 朝日新聞「同性婚訴訟、高裁で違憲判決5連続」⁵²
- 琉球新報「百田代表『沖縄2紙つぶれていい』発言」(2015年6月28日)¹²
- 琉球朝日放送(QAB)「百田代表発言で自民謝罪」(2015年6月26日)¹⁶
- Independent (UK) "Japanese author suggests women should have wombs removed at 30" (Oct 2023)²¹
- 週刊文春電子版「日本保守党"領収書問題"の内幕」(2024年11月)³⁵
コメント・論考
- 有本香「日本保守党1年の舞台裏」(月刊Hanada 2024年12月号)
- 佐藤優「冗談では済まない百田代表の沖縄軽視発言」(現代ビジネス 2015年7月15日)²⁰
- 小林よしのり「百田発言への反論」(2023年9月号 WiLL対談批判)²⁰
- 飯山晃子氏YouTube告発動画「私は日本保守党に騙されていた」(2024年)³⁶
- 日本共産党機関紙「自民会合で言論弾圧大合唱」(しんぶん赤旗 2015年6月27日)¹⁶
- 札幌弁護士会声明「5高裁違憲判決を受け速やかに同性婚を法制化せよ」(2023年3月)⁵⁷
その他
- Wikipedia「百田尚樹」(最終更新2025年7月)²
- INVISIBLE Dojoブログ「2015年の百田発言記事を振り返る」(2023年9月13日)¹²
- デイリースポーツ「日本保守党・百田代表 個人Xを封印」⁴³
- テレ朝NEWS「マイナ保険証"顔認証できない高齢者への対処"」(2024年12月)⁵³
- 東京スポーツ「百田尚樹代表ツイッターで過去の『犯罪』告白」(2017年)
- ニコニコニュース「百田尚樹代表発言集」
参考資料
公式資料・議会資料
- 衆議院・参議院議案情報、会議録(NHK経営委員任命案件)⁵⁶
- 総務省『令和5年分政治資金収支報告書』(中央分、百田尚樹代表 日本保守党)³⁰
- 参議院本会議質疑(石破首相 所信表明に対する質疑、2025年7月)¹⁴
- 文化庁有識者会議報告(生成AIと著作権, 2023年)等
政党・選挙関連資料
- 日本保守党公式サイト「百田尚樹 プロフィール」¹
- 2025年参院選 日本保守党公約要旨(朝日新聞デジタル掲載)⁶
- 2024年衆院選開票速報・会見(デイリースポーツ)⁵
- 2023年 日本保守党 結党宣言・重点政策(Abema Prime解説)⁴²
報道資料
- 朝日新聞「日本保守党の公約(要旨) 参院選2025」⁶
- 朝日新聞「針路を問う 参院選2025 百田尚樹代表インタビュー」(2025年7月)⁴²
- 毎日新聞「石破首相 消費減税に否定的発言」(2025年7月11日付)¹⁴
- 産経新聞「防衛増税に慎重論相次ぐ」(2023年)¹⁸
- 東京スポーツ「百田尚樹代表ツイッター引退宣言~撤回」(2020年)⁴¹
- J-CASTニュース「"炎上上等"百田代表爆弾発言続々」(2015年)¹⁵
- 朝日新聞「同性婚訴訟、高裁で違憲判決5連続」⁵²
- 琉球新報「百田代表『沖縄2紙つぶれていい』発言」(2015年6月28日)¹²
- 琉球朝日放送(QAB)「百田代表発言で自民謝罪」(2015年6月26日)¹⁶
- Independent (UK) "Japanese author suggests women should have wombs removed at 30" (Oct 2023)²¹
- 週刊文春電子版「日本保守党"領収書問題"の内幕」(2024年11月)³⁵
コメント・論考
- 有本香「日本保守党1年の舞台裏」(月刊Hanada 2024年12月号)
- 佐藤優「冗談では済まない百田代表の沖縄軽視発言」(現代ビジネス 2015年7月15日)²⁰
- 小林よしのり「百田発言への反論」(2023年9月号 WiLL対談批判)²⁰
- 飯山晃子氏YouTube告発動画「私は日本保守党に騙されていた」(2024年)³⁶
- 日本共産党機関紙「自民会合で言論弾圧大合唱」(しんぶん赤旗 2015年6月27日)¹⁶
- 札幌弁護士会声明「5高裁違憲判決を受け速やかに同性婚を法制化せよ」(2023年3月)⁵⁷
その他
- Wikipedia「百田尚樹」(最終更新2025年7月)²
- INVISIBLE Dojoブログ「2015年の百田発言記事を振り返る」(2023年9月13日)¹²
- デイリースポーツ「日本保守党・百田代表 個人Xを封印」⁴³
- テレ朝NEWS「マイナ保険証"顔認証できない高齢者への対処"」(2024年12月)⁵³
- 東京スポーツ「百田尚樹代表ツイッターで過去の『犯罪』告白」(2017年)
- ニコニコニュース「百田尚樹代表発言集」
以下の資料によりファクトチェック実施済み、本文記事修正済み。