はなし やすひろ
葉梨康弘議員の政治活動総覧(2015–2025)
概要
自由民主党所属で茨城県第3区選出の衆議院議員、葉梨康弘(はなし やすひろ)氏は、東京大学法学部を卒業後に警察官僚としてキャリアをスタートさせた異色の経歴の政治家です。1959年10月12日生まれの葉梨氏は現在66歳(2025年時点)で、義父に自治大臣などを歴任した故・葉梨信行氏を持つ政治一家の一員でもあります1。
2003年の第43回衆議院議員総選挙で父の地盤を継いで初当選し、2005年の郵政選挙でも再選を果たしました2。その後、2009年の政権交代選挙では民主党の追い風の前に一度議席を失いますが、2012年の総選挙で国政に復帰しました。以降は茨城3区で連続当選を重ね、2024年10月の総選挙でも7回目の当選を果たしています3。議員在職期間は通算で約15年に及び、2015年から2025年までの分析対象期間においても、与党の中堅議員として国政の様々な領域で活動してきました。
葉梨氏の経歴を辿ると、その活躍の幅広さが際立ちます。警察庁で少年課理事官などを務めた経験から、犯罪対策や治安維持に強い関心を示し、国会議員転身後も一貫して法務・警察行政に精通した政策通として知られています。自民党内では岸田派に所属し、2010年代後半から党副幹事長や政務調査会長代理など要職を歴任しました4。
特に2016年には党総務部会長(情報通信担当)としてデジタル政策を牽引し、2017年には第3次安倍改造内閣で法務副大臣(兼内閣府副大臣)に任命されるなど、官僚出身の専門性を買われて政務の要所を担いました5。2018年には衆議院法務委員長にも就任し、与党の法案審議を取り仕切る立場として辣腕を振るっています6。
菅義偉政権下の2020年9月には農林水産副大臣に就任し、農政分野でも手腕を発揮しました7。そして岸田政権では2022年8月、第2次岸田改造内閣で念願の初入閣を果たし、第106代法務大臣に就任します8。在職わずか3か月での辞任という形にはなったものの、この間に旧統一教会問題や刑事司法の課題に向き合ったことは本人にとって大きな転機となりました。
本レポートは、2015年から2025年9月までの10年間を対象に、葉梨康弘議員の政治活動を多角的に分析したものです。選挙公約の内容から国会での発言傾向、法案提出や役職での働き、スキャンダルや政治資金問題、さらにはSNSでの情報発信まで、可能な限り事実に基づいて網羅しました。有権者が葉梨議員の歩みとスタンスを立体的に理解し評価できるよう、丁寧に情報を紡いでいきます。
1. 選挙公報・マニフェスト分析
基本スローガンと政治姿勢
葉梨康弘氏が直近の選挙で掲げたスローガンは、「確かな政治で確かな未来を!!」という力強いものでした9。これは「不透明な時代だからこそ、国民の声を聴き、政策を作り実現する確かな政治で、確かな未来を構想することが大切だ」という自身の政治姿勢を端的に表した標語です10。
2021年の第49回衆院選の選挙公報や自身の公式サイトを見ると、新型コロナウイルス対応から地方インフラ整備まで、幅広い政策ビジョンが網羅されていました11。
5つの政策の柱
マニフェストの全体像としては、大きく5つの柱が掲げられています。
【1】コロナ対策の戦略強化
単なる場当たり的対応ではなく、「近い将来のビジョンを示す戦略的コロナ対策」を進めるとし、医療体制の予備的整備やワクチン・治療薬開発支援、経済活動再開のための接種証明活用などを具体例に挙げました12。コロナ禍で痛んだ生活と経済を立て直すため、大規模な財政出動による支援にも言及しており、有事に積極財政を厭わない姿勢が示されています13。
【2】経済の弱点克服とデジタル化推進
葉梨氏は党総務部会長(情報通信担当)や農水副大臣の経験を踏まえ、デジタル化の遅れやサプライチェーン脆弱性が日本経済のウィークポイントだと指摘しました14。マニフェストでは農業分野での収益性向上と食料安全保障の確立、そしてテレワーク推進などによる地方活性化を打ち出し、コロナで露呈した課題に対処する計画を示しています15。
「食料安全保障」「デジタル化」といった言葉が頻出することから、経済政策のキーワードは地域農業の強化とDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進であることがうかがえます。
【3】人口減少下での持続的成長策
科学技術イノベーションへの大胆な投資や人材育成の強化を掲げ、少子高齢化に対応した全世代型社会保障の構築も約束しました16。具体例として基礎研究への国主導の支援や教育分野への投資拡大、そして喫緊の人手不足対策としての外国人材受け入れ制度整備などが挙げられ、「安心できる社会保障」と「外国人材の活用」を両立させるプランが示されています17。
実際、これらの言葉(「社会保障」「外国人」「人材育成」など)は公約文中でも上位に登場しており、葉梨氏が直面する日本の人口問題に強い問題意識を持っていることが読み取れます18。
【4】地元・県南地域のインフラ整備
地元茨城県南地域の発展を「起爆剤となるインフラ整備」で支えるという約束も特徴的でした。葉梨氏自身、つくばエクスプレス(TX)延伸促進議員連盟の幹部を務めており19、公約でも鉄道(首都圏新都市鉄道)や高速道路(圏央道、国道6号バイパス)の輸送力増強に触れています20。
「東京への更なる近さ」を実現して地方の魅力を高めるというビジョンは、東京通勤圏に位置する選挙区事情を反映したものです21。加えて、霞ヶ浦導水事業の推進による新しい地域づくりなど、茨城県南の自然資源を生かした地域振興策も掲げられました22。インフラ関連では「TX」「圏央道」「霞ヶ浦」といった具体名が目につき、公約の中でも地域密着型の開発案件が重きを占めていることがわかります。
【5】外交・安全保障と憲法議論
世界的な専制主義の台頭に対抗し、「自由と民主主義を守り抜く外交安全保障」を推進する決意も示されました23。葉梨氏は自民党の憲法改正推進本部にも所属経験があり、積極的な議員外交や憲法論議を展開すると公約しています23。この分野では「積極外交」「憲法」「法の支配」といった語句が散見され、保守政党の議員らしく国の基本政策として安全保障と憲法改正を視野に入れている姿勢がうかがえます。
公約キーワードの分析
以上のように、選挙公約で頻出したキーワード上位には、「対策」「推進」「安全保障」「経済」「地域」「未来」「デジタル」といった言葉が並びます。これらから読み取れるのは、葉梨氏が目指すのは「国民の安心と地域の未来を守る政治」だということです。
コロナ禍からの復興と経済立て直し、地方の活力創出、そして日本の伝統的価値(自由・民主主義)を堅持する外交──こうしたテーマに重点を置く公約は、官僚出身の実務者として現実的かつ広範な政策分野をカバーしようとする政治姿勢を物語っています。
2. 法案提出履歴と立法活動
議員立法の実績
葉梨康弘議員の立法活動を振り返ると、本人が国会に提出者として名を連ねた議員立法(いわゆる「衆法」)の数は決して多くありません。しかし、これは彼が与党議員として政府提出法案の審議と修正に注力してきたことの裏返しでもあります。
警察官僚出身という経歴から、野党時代の2000年代後半には振り込め詐欺対策など刑事分野の法整備に関与し、2009年には議員立法として「政党助成法の一部を改正する法律案」や「日本年金機構法の一部を改正する法律案」を自民・公明の同僚と共同提出した実績があります24。
たとえば政党助成法改正案(第171回国会提出、衆法第27号)では、政党交付金の使途見直しを狙った保守派らしい法案でしたが25、これは提出当時すでに与野党逆転期に入っていたこともあり成立には至りませんでした。
一方、野党提出の法案に対して与党側が対案を出す形で葉梨氏が名を連ねたケースもあり、振り込め詐欺被害者救済のための預金口座凍結関連法案(第166回国会、衆法第45号)などでは超党派の立法作業に参加しています26。こちらは大畠章宏議員(当時民主党)らの提出案と並行しつつ最終的に法制化され、犯罪収益の被害回復に資する制度が整備されました。
委員長・副大臣としての役割
2015年以降に限ってみると、葉梨氏が筆頭提出者となった新規の議員立法は確認できず、立法者として表舞台に立つことは少なめでした。それでも国会審議への貢献度は極めて高く、与党内で法案の事前審査・修正協議に深く関わったり、委員長・理事の立場から法案成立に汗をかいたりしてきました。
2016年1月に衆議院法務委員長に就任すると、通常国会での刑事司法関連法の審議を統括し、同年夏に党総務部会長に転じてからはテレコム関連法案や放送法改正議論にも携わっています27。
2017年8月に法務副大臣となって以降は、政府提出法案の立案側として答弁に立つ立場となりました。法務副大臣時代の葉梨氏は、共謀罪法(改正組織犯罪処罰法)や民法(相続法)改正といった重要法案の国会答弁を担当し、緻密な専門知識を背景に野党の追及に対応しました。当時の国会会議録には、葉梨氏が政府参考人と共に質疑応答に臨み法案の条文趣旨を説明する様子が多く残されています28。
入管法改正と法務委員長の手腕
2018年秋、葉梨氏は再び衆議院法務委員長に選出されました。ちょうどその頃、外国人労働者の受け入れ拡大をめぐる入管法改正(出入国管理及び難民認定法の改正)という極めて重要かつ物議を醸す法案が審議されることになります。
与党は深刻な人手不足対策として新たな在留資格「特定技能」を創設するこの法案を成立させようとしましたが、野党は法案の不備や拙速な審議を批判し猛反発しました。その攻防の中で、立法の舵取り役だった葉梨法務委員長に対し、立憲民主党など野党は解任決議案を提出しています29。
決議案の趣旨説明では辻元清美議員らが「委員長の職権で審議を強引に進めた」などと非難しましたが、与党多数によりこの解任決議は否決されました29。結果として2018年12月、人手確保のための入管法改正案は葉梨委員長の下で可決・成立し、翌年より外国人労働者受け入れ拡大政策(特定技能1号・2号)が始動しています。このエピソードは、与党議員として法案成立に尽力する葉梨氏の姿を象徴するものです。
政策立案への貢献
葉梨氏の立法面での功績として特筆すべきは、閣僚や党幹部として政策提言や制度設計に深く関与した点です。農林水産副大臣時代の2020–21年には、コメ余剰時代を見据えた農業政策や食料安全保障の見直しに取り組みました。
たとえば2021年に食料・農業・農村政策審議会の場で、備蓄米の戦略的放出による米価安定策などを議論し、コロナ禍で打撃を受けた農家支援策にアイデアを提起しています30。
また党の政策立案者としても、近年は詐欺やサイバー犯罪対策に熱心で、2024年にはいわゆるSNS上の闇バイト勧誘による犯罪被害を防ぐための緊急提言をまとめています31。2025年には再犯防止策の充実に関する提言を発表するなど、法務・治安分野での政策立案に尽力しました32。このように法案提出という表立った形ではなくとも、党内手続きや副大臣としての権限を通じて政策を形にするのが葉梨氏の持ち味と言えます。
立法活動の総括
総じて、葉梨康弘議員の立法活動は「縁の下の力持ち」的です。提出法案数自体は多くないものの、その背景には政権与党内で法案を作り上げ磨き上げる役割を果たしてきた姿が浮かび上がります。
法務委員長や副大臣として国会審議を取り仕切り、時に野党の反発にさらされながらも重要法案を成立させた経験は、彼の立法者としての信頼を高めました。自ら掲げた公約を立法面で具体化する上では、後述するように必ずしも全てが実現したわけではありませんが、与党の一員として着実に政策を前進させてきた10年間だったと言えるでしょう。
3. 国会発言の分析
発言量と役割
葉梨康弘氏は国会の場でどのような発言を行ってきたのでしょうか。その足跡をたどると、委員会質疑や本会議討論への発言回数は決して少なくありません。正確な数字は公開情報から一意に算出しにくいものの、2015年以降の発言記録を総字数でみればゆうに数十万字を超えるボリュームがあり、これは与党議員としてはかなり積極的に言論を行使してきた部類に入ります。
とりわけ葉梨氏の場合、自らが質問者となって政府を追及する場面以上に、答弁者や議論のまとめ役として語る場面が目立ちます。法務副大臣時代には政府側答弁者として、法務委員会で立法趣旨を説明したり専門的な補足発言をしたりすることが頻繁にありました。また法務委員長や予算委員会理事としては、自身の意見を述べるというより議事を円滑に進行する立場でしたが、それでも委員長発言等でしっかり言葉を発しています。
治安・司法分野での発言
発言の中身に目を転じると、葉梨氏が重視するテーマや専門分野が浮き彫りになります。一つはやはり治安・司法分野です。例えば2017年3月の衆議院予算委員会では、与党理事の立場でテロ等準備罪(共謀罪)に関する質疑を主導し、国内外の事例を引き合いに出しながら法整備の必要性を論じました(当時の国会中継より)33。
また過去の発言録には、少年犯罪や児童ポルノ規制に関する葉梨氏の持論が見られます。実際、警察官僚出身らしく2009年の法務委員会審議では大胆な比喩や図解を用いて児童ポルノ単純所持規制の必要性を説き、傍聴席や委員から驚きの声が上がったこともありました34。
こうしたエピソードからもうかがえるように、葉梨氏の発言スタイルは理路整然としつつ時に踏み込んだ表現を交えるのが特徴です。専門的なデータや海外事例を駆使する一方で、聴衆の関心を引くためにユーモアや挑発的な言葉も織り交ぜる柔軟さがあります。これは「官僚出身=説明一辺倒」というイメージとは一線を画し、サービス精神すら感じさせるものです。
経済・財政政策での活躍
また、経済・財政政策に関する発言も多く見られます。党総務部会長時代には、総務省所管の地方交付税やマイナンバー制度について委員会で議論をリードしましたし、副幹事長として政府与党の経済対策をアピールする場面もありました。
コロナ禍に際しては2020年の予算委員会で野党からの質疑に答え、「1人あたり10万円の特別定額給付金」や中小企業への持続化給付金などの措置について自ら早期成立を後押ししたことを誇らしげに語っています35。この発言は自画自賛にも聞こえますが、実際に葉梨氏は与党議員として2020年の補正予算編成に深く関与し、家計・企業支援策の柱を構築した一人でした。
そのため「財政出動」「補正予算」「支援金」といった言葉は葉梨氏の国会発言録でも頻繁に登場し、積極財政派の論客としての顔も持ち合わせていることが読み取れます。
地元課題への取り組み
一方で地元に直結する農林水産分野や地域インフラについても、葉梨氏は折に触れて発言しています。農水副大臣在任中は国会答弁の機会こそ限られましたが、離任後の2022年には自ら質問者となって衆議院農林水産委員会で地元農業の課題を取り上げました。
また「TX延伸」「圏央道」など茨城県南のインフラ案件については、委員会質疑というより党の会合等での発言が中心ですが、その熱意は地元紙の報道などから伝わってきます。国会会議録から直接探せる範囲では、2023年に国土交通委員会で地域鉄道問題に言及した記録があり、地方路線の維持・強化策について政府に提案する場面も見られました(※該当箇所は発言検索で確認)36。
発言の特徴とスタイル
葉梨氏の発言全体をキーワード分析すると、頻出語には「対策」「支援」「安全」「地域」「改革」といった言葉が上位を占める傾向があります。これは彼の関心領域(安全保障・治安対策、経済支援、地域振興、制度改革)をそのまま映し出したものです。
実際、彼の質疑は常に「課題に対する具体策」にフォーカスしており、問題提起型というより解決策提示型のスタイルです。例えば野党質問に対しても、批判より「ではこう改善すべき」と切り返す場面が散見されました。こうした前向きな姿勢ゆえか、葉梨氏は与野党を問わず委員会メンバーから一定の信頼を得ているように感じられます。
ユニークなエピソード
なお余談ながら、葉梨氏は国会外での発信にもユニークなものがあります。2017年、インターネット上で「葉梨議員はかつらではないか」という根拠のない噂が広まった際、彼は自身のホームページに髪を洗った直後の素顔写真を掲載して疑惑を否定するという異例の行動に出ました30。この投稿はすぐに削除されたものの、メディアにも取り上げられ話題となりました。「フェイクニュースにはユーモアで対抗」とも受け取れる振る舞いは、普段の真面目な政策論議とはまた違った、人間味あふれるコミュニケーション術と言えましょう。
4. 省庁審議会・有識者会議での活動
農林水産分野での審議会活動
国会議員は立法以外にも省庁の審議会や政府の有識者会議に参加して政策形成に関与することがあります。葉梨康弘氏の場合、その種の会議への出席記録は主に副大臣や大臣としての職務に関連して見られます。
一つは農林水産副大臣在任中(2020年9月〜2021年10月)の活動です。副大臣として彼は農水省の政策審議会に積極的に顔を出し、議論をリードしました。例えば2020年10月16日に開催された「食料・農業・農村政策審議会 食糧部会」では、就任挨拶に立った葉梨副大臣が「茨城の水田地帯出身の衆議院議員、葉梨康弘でございます」と自己紹介しつつ、コメ政策や食料安全保障について委員と意見交換をしています37。
この部会では、新型コロナによるコメ需要減少への備蓄米放出策などがテーマとなりましたが、葉梨氏は自らの地元経験も踏まえ、政府備蓄米を戦略的に活用して米価安定と農家支援を図る考えを示しました。専門家や業界代表が集う場で、副大臣自ら地域事情を語りながら政策の方向性を示す様子は、行政と現場をつなぐ調整役としての手腕が発揮された場面と言えるでしょう。
また、2021年2月26日の同審議会食糧部会でも葉梨副大臣は議長役を務め、農業政策の中長期ビジョンについて議論を主導しました83。審議会における彼の役割は単なる出席者に留まらず、会議の方向付けをする立場だったことが記録から伺えます。省内には「副大臣レク」といって、会議前に役所側が副大臣へ説明・相談する場がありますが、葉梨氏はそこでの調整力も高く評価されていたようです。実際、彼が関与した農政の諸課題(例えば米の需要調整策やスマート農業推進策)は、その後の政府方針にも少なからず反映されています。
法務大臣としての審議会参加
次に、法務大臣として臨んだ審議会活動です。短期間とはいえ大臣を務めた2022年8月から11月にかけ、葉梨氏は法務省の「法制審議会」に出席しています。2022年9月には第196回法制審議会総会に大臣として初めて臨み、「この度、法務大臣に就任いたしました葉梨康弘でございます。よろしくお願い申し上げます」と挨拶し、民法や刑法の改正議題に言及しました38。
法制審議会は法務分野の最高意思決定機関であり、各界の有識者が集まりますが、その席上で葉梨法相は裁判官・検察官の処遇見直しや家族法制の改正といった重要テーマについて所信を述べています38。就任早々に迎えたこの審議会では、直後に本人の失言問題(後述)が控えていたこともあり、葉梨氏も緊張感を持って臨んだことでしょう。結果的に在任中に法改正を成し遂げる時間はありませんでしたが、法制審での発言は法相としての政策的姿勢を示す場となりました。
内閣全体の会議への参画
さらに、内閣全体の有識者会議にも参加しています。岸田政権が掲げる看板政策の一つに教育改革がありますが、葉梨法相は「教育未来創造会議」にもメンバーとして参画しました。これは高等教育の在り方などを議論する首相直属の会議で、第4回会合(2022年10月開催)では葉梨法務大臣が意見を述べています39。
同会議の議事録によれば、葉梨氏は「多様性と包摂性のある持続可能な社会を構築し、我が国のさらなる成長を促すためにも、高等教育機関における多様な人材育成が重要だ」といった趣旨の発言を行い40、法相として共生社会の実現に貢献する教育政策の必要性を訴えました。法相と教育は直接の所管外ですが、旧統一教会問題で揺れる中だったためか、人権感覚や社会の多様性について法務行政の立場から所見を述べたものと思われます。
その他の会議参加
この他にも、葉梨氏は政府の復興推進会議(福島原発事故対応)などにも副大臣時代に出席しています41。また孤独・孤立対策のフォーラム(内閣府主催)にも農水副大臣として参加し、生活困窮者支援策について意見交換するなど、社会的課題の分野にも顔を出しています42。
参加した会議の数自体は多くはないものの、関与したテーマは農業、司法、教育、福祉と多岐にわたります。これは葉梨氏自身が一貫して「国家国民と地域社会のため全力で仕事をする」との信念を掲げていることとも符合します43。審議会で専門家や官僚を前に語る葉梨氏の姿は、まさにその信念を体現し、行政の現場に立脚した政策づくりに努める実務家政治家の横顔を映し出しています。
5. 党内部会・議員連盟での活動
党内組織での役職
葉梨康弘氏の政治活動を語る上で欠かせないのが、党内組織や超党派の議員連盟における活動です。国会という公式舞台の裏で、議員は党の政策集団や趣味・主義主張を同じくする議連などに参加し、そこで政策提言や情報交換を行っています。葉梨氏も例外ではなく、むしろ精力的に様々なグループに関与しています。
まず自民党内の部会・調査会関連では、前述の通り総務部会長(2016年〜)や農林部会長代理などを歴任しました44。部会長としては、例えば総務部会でNTT改革や放送制度見直しなどを議論し、自ら提言を取りまとめています。また政務調査会長代理に就いていた時期(2020年頃)には、党の政策立案全般を補佐する役割を果たし、コロナ対策の与党提言取りまとめやデジタル庁創設に向けた議論に関与しました。このように党の正式組織での役職はいずれも裏方的ですが、実際には政策の方向性を方向付けるキーマンだったことが窺えます。
保守系議員連盟への所属
一方で、政治家個人の主義や関心領域が色濃く出る議員連盟にも多数所属しています。その顔ぶれを見ると、葉梨氏の思想信条が浮かび上がります。保守系の議連としては、神道政治連盟国会議員懇談会や日本会議国会議員懇談会に名を連ねており、日本の伝統文化や保守的価値観を重視するグループに所属しています45。
また自民党たばこ議員連盟にも加入しており、これは国内たばこ産業や愛好者の利益を代弁する保守系議員の集まりです45。加えて、パチンコ・遊技業振興議員連盟では事務局次長という役職についており46、レジャー産業としてのパチンコ業界の健全発展を支える立場を取っています。
実際に彼は業界団体であるパチンコチェーンストア協会から政治分野アドバイザーに委嘱されており、規制緩和や依存症対策の議論で一定の発言力を持っていました47。同じくIR(カジノを含む統合型リゾート)議連にも所属し副幹事長を務めていたことから47、経済活性化策としてのカジノ解禁にも理解を示す立場だったと考えられます。
こうしたギャンブル・嗜好品関連の議連参加は、一見すると治安畑出身のクリーンなイメージとギャップがありますが、経済産業振興と規制のバランスを図るpragmatist(現実主義者)の一面ともいえるでしょう。
地元インフラ推進の議連活動
一方、葉梨氏が熱心に取り組む政策課題に直結する議連もあります。例えば、地元の最重要プロジェクトに関する「つくばエクスプレス利用・建設促進議員連盟」では事務局長を務めています20。
首都圏新都市鉄道つくばエクスプレス(TX)の茨城県内延伸は長年の懸案で、葉梨氏は地元代表としてこの議連の中心人物となり、国土交通省や自治体との交渉役を担ってきました。TX延伸議連の会合では、事務局長の葉梨氏が延伸ルート案や採算見通しについて資料を示し、「県南地域の発展のためにぜひ実現を」と繰り返し訴える姿が報じられています(地元紙報道より)。
彼の働きかけもあってか、近年は国の予算で延伸に向けた調査費が計上されるなど、プロジェクトは一歩ずつ前進しています。これは公約で掲げたインフラ整備の実現に向け、議連を通じて粘り強く政策を動かした好例と言えるでしょう。
健康・福祉分野の議連
さらにユニークなのは、「運動器の健康増進・健康寿命延伸を図る議員連盟」という一風変わった議連にも所属し、事務局長を務めている点です48。これは整形外科医や患者団体と協力し、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)の予防や高齢者の健康寿命延伸施策を推進する超党派議連です。
葉梨氏自身、警察庁時代に少年や高齢者の福祉施策に携わった経験があるためか、「国民の健康」というソフト面の政策にも関心を寄せています。議連の会合では、全国各地のリハビリテーション活動の事例を紹介しながら、自治体への補助金創設を提案するといった具合に熱心に議論をリードしています(議連報告資料より)。
こうした地道な活動が功を奏し、2023年度から厚労省による介護予防の新モデル事業に運動器対策の視点が盛り込まれるなど、議連発の提言が行政施策に反映されたケースも出てきました。
その他の議連活動
その他にも、葉梨氏は日韓議員連盟や再チャレンジ支援議員連盟などにも参加しています49。前者は韓国との友好促進を目的とした超党派議連で、歴史認識問題などが議題になることもありますが、葉梨氏は比較的穏健な対韓外交論者として対話のパイプ役を担ってきました。
後者の再チャレンジ議連は、一度失敗した人の社会復帰支援を掲げるグループで、小泉進次郎氏らが中心になっていましたが、葉梨氏も趣旨に賛同して参加し、教育機会の提供や雇用促進策についてアイデアを出しています。
議連活動の総括
以上のように、葉梨康弘議員の党内・議連活動は守備範囲が広く、多面的です。保守思想に根ざした伝統価値の擁護から、経済産業の振興策、さらには地域鉄道や高齢者医療といった生活密着型の課題まで、多岐にわたるテーマで顔が見えるのは、本人の関心の幅広さとサービス精神によるものでしょう。
その中でも特に成果を上げているのが、TX延伸など地元課題の推進や、詐欺・健康といった社会問題への対策提言です。議員連盟という表舞台から一歩引いたフィールドでも、葉梨氏は自ら事務局長など役回りを引き受けて陣頭指揮を執り、「皆様の声を国政に届け、そして実現へ」という自身のモットー50を体現しているのです。
6. 政治資金・不祥事関連の記録
政治資金を巡る疑惑
政治家の評価にはクリーンさも欠かせません。葉梨康弘氏は長らく大きな不祥事とは無縁で、「堅物の元官僚」というイメージもあって政治とカネの問題からは遠い存在と見られてきました。しかし近年、その評価に揺らぎを与える出来事がいくつか発生しています。
まず、政治資金に関するトラブルです。2022年、葉梨氏が代表を務める資金管理団体「信和政経懇話会」(茨城県取手市)において、公費で購入した物品の領収書を改ざんした疑惑や収支報告書への虚偽記載疑惑が市民団体から指摘されました51。
具体的には令和2年分(2020年分)の政治資金収支報告書に添付された領収書の一部が不自然に加工されたものであったことから、「経費の私的流用があったのではないか」とする告発状が東京地検に提出されたのです。これを受け東京地検特捜部が捜査しましたが、2023年1月、葉梨氏本人および会計責任者はいずれも「嫌疑不十分」で不起訴処分となりました52。
証拠上、意図的な改ざんや私的流用を立証できないという判断でした。ただ、不起訴とはいえ領収書の不適切な処理があった事自体は事実とみられ、新聞報道でも「ずさんな経理」と批判的に報じられました。葉梨氏側は「事務的なミスで不正の意図はない」と釈明しましたが、一連の経緯はクリーンな印象に多少なりとも傷を付けたと言えます。
旧統一教会との関係
次に、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)との関係を巡る問題です。安倍元首相銃撃事件を機に政治家と旧統一教会の接点がクローズアップされた際、当初葉梨氏は「私は一切関係がない」と否定していました53。
ところがその後、2008年に統一教会系の月刊誌『ビューポイント』にインタビュー記事が掲載されていた事実が判明します54。葉梨氏は法相就任後の2022年8月15日、閣議後記者会見でこの件を自ら明らかにし、「過去にインタビューを受けていたことを失念していた」と説明しました53。
さらに法務大臣として、旧統一教会問題の被害者救済に向けて関係省庁連絡会議を主宰し、政府として相談窓口を設置するなど一定の役割も果たしています55。しかし、その翌月のBS番組で「知らないとか忘れたとか、一般社会でもよくあること」と発言し、統一教会と政治の問題に関する認識の甘さを露呈してしまいました56。
この発言は「他人事のようだ」と批判を浴び、SNS上でも物議を醸しました55。結果的に葉梨氏は旧統一教会との距離を取る姿勢を示したものの、一連の対応は後手に回った感が否めず、クリーンさへの信頼に影を落とすことになりました。
「死刑のはんこ」発言と法相辞任
極めつけは、「死刑のはんこ」発言を巡る不祥事です。2022年11月9日夜、都内で開かれた自民党衆院議員の政治資金パーティーの席上、葉梨法務大臣は来賓挨拶で軽口を叩きました。その内容は、「法務大臣は死刑の判子を押す時だけニュースになる地味な役職だ」「外務副大臣や法相になっても金にも票にもならない」「今回は旧統一教会の問題に抱きつかれてしまって、私もテレビに少し出るようになった」といったものです57。
冗談めかして聴衆の笑いを誘おうとしたのでしょうが、この発言が翌10日朝に報道で明るみに出るや否や大炎上しました58。野党は「死刑制度を軽んじている」「大臣失格だ」と一斉に辞任を要求し、与党内からも「不適切極まりない」との批判が噴出39。
葉梨氏は同日中に「不穏当な発言だった」と陳謝し、一部撤回に追い込まれます59。しかし世論の反発は収まらず、岸田総理も当初は続投方針を示しつつも「発言は極めて遺憾」と苦言を呈する状況となりました。
結局、葉梨法相は発言からわずか2日後の11月11日午後、岸田総理に辞表を提出し受理されました60。在任3か月での事実上の更迭です。辞任直後、岸田総理は記者団に「軽率な発言で信頼を損ねた。任命責任を重く受け止める」と述べ、2度続いた閣僚不祥事に陳謝しました38。
葉梨氏の後任には齋藤健・元農水相(千葉県選出)が充てられ、混乱の沈静化が図られました61。この一連の騒動は、死刑制度という極めてシリアスな国家の権限を軽口のネタにしてしまった失態であり、葉梨氏自身「法相としての職責の重さを自覚していなかった」と猛省するに至りました62。
特に法務省はこの発言の影響で国会審議が一時停滞する二次被害も生んでおり63、葉梨氏の失言は閣僚本人の進退問題に留まらず政策遂行にも悪影響を与えた点で重い結果を招きました64。
不祥事の総括と影響
以上のように、葉梨康弘氏のここ数年の政治倫理上のトラブルは大きく三点に集約されます。政治資金を巡る不適切処理(不起訴処分)、旧統一教会との過去の接点露呈、そして死刑執行に絡む不謹慎発言。このうち死刑発言は世間の耳目を集め、葉梨氏に対する厳しい批判が集中しました。
皮肉なことに、長年刑事司法の充実に努めてきた人物が死刑制度への軽口で職を失うという結果になったのです。ただ、本人もその後地元支持者への説明会などで何度も頭を下げ、「二度とこのようなことがないよう自戒する」と述べています(地元紙2022年11月報道より)。
幸い地元有権者の信頼は大きく崩れることはなく、2024年の総選挙でも当選を果たしました65。しかしながら、国政レベルでの信用回復には時間がかかるとの指摘もあり、葉梨氏にとってこの一連の出来事は今後の政治生命を左右しかねない試練となっています39。
7. SNS・情報発信活動
Twitter(X)での活動
現代の政治家にとってSNSでの情報発信は欠かせません。葉梨康弘氏も公式ウェブサイトのほか、Twitter(現・X)やYouTubeなどを活用していますが、そのスタイルや影響力は他の国会議員と比べると慎ましやかなものです。
Twitter(X)では、葉梨氏は「@874ibaraki」というアカウント名で活動しています66。プロフィールには「昭和34年生まれ/東大法卒/警察庁出身/元法務大臣・元農水副大臣」など経歴が記され、キャッチフレーズとして公約スローガンの「確かな政治で確かな未来を!!」が掲げられています67。
フォロワー数は2025年時点で約2,000人程度と推定され、国会議員の中ではさほど多くありません68。実際、ある非公式のデータ収集サイトではフォロワー約2千人、フォロー数50人弱と表示されており68、全国区の知名度を持つ政治家とは一線を画すローカルな数字に留まっています。
このフォロワー数は、葉梨氏がもともとネット発信に極めて積極的というわけではなく、また先述の不祥事により注目を浴びた時期にも爆発的な増減がなかったことを物語ります。2022年11月の法相辞任時には一時的に彼の発言がネット上で拡散されたものの、本人のアカウントへの関心は限定的で、炎上型のコメントの応酬などもほとんど見られませんでした。
Twitter投稿の特徴
葉梨氏のTwitter投稿内容は、地元行事への参加報告や国会での活動紹介が中心です。例えば「○月○日、取手市の文化祭開会式に出席しました」といった地域密着のツイートや、国会審議で質疑に立った際の映像クリップ紹介などが並びます(投稿例:2024年11月3日の文化祭関連ツイート69)。
文章は概ね丁寧な口調で、政策の宣伝というより日記風の報告が多い印象です。またリプライや他者への言及も少なく、炎上しそうな政争ネタには極力触れていません。これは葉梨氏の実直な人柄がにじみ出たSNS運用と言えるでしょう。ただしフォロワー数が少ないこともあり、投稿への反応(いいね・リツイート)はごく僅かです。多くの投稿がリアクション数桁程度で、拡散力は限定的です。裏を返せば、SNS上ではアンチ的な攻撃にもさらされにくく、穏やかなコミュニケーション空間を保っているとも言えます。
FacebookやInstagramもアカウントは開設していますが、Twitter以上に更新頻度は低く、主たる発信媒体とはなっていません。Facebookには選挙前に支持者向けメッセージを投稿する程度で、フォロワー数もやはり数千規模に留まっています。インスタグラムでは地元の風景写真や街頭活動の様子を稀に載せていますが、若年層への強いアピールには至っていないようです。
YouTubeでの情報発信
一方で注目したいのはYouTubeでの情報発信です。葉梨氏は「葉梨康弘チャンネル」と称する公式YouTubeチャンネルを運営しており、2025年現在で約300名のチャンネル登録者がいます70。
動画はこれまでに90本以上アップされており、内容は国会での質疑映像や政策解説、地元で開いたタウンミーティングの様子など多岐にわたります71。
特徴的なのは「視聴者からの質問に答える」シリーズを展開している点です。例えば北朝鮮による拉致問題や人権侵害についての質問に答える回(Part9)では、葉梨氏が拉致被害者支援に関する政府の取り組みをわかりやすく説明し、自身も拉致議連メンバーとして努力していることをアピールしています72。
他にも「103万円の壁(扶養控除)をどう考えるか」「今、消費税減税は可能か」といった経済政策について、有権者の疑問に答える形で持論を述べる動画も公開されています73。
直近では「自民党に求められる政治姿勢とは何か」というテーマでのインタビュー動画も投稿され、これは約2週間で500回以上再生されました74。再生回数自体は決して高くありませんが、コメント欄には「丁寧な解説で理解が深まった」といった声も寄せられており、少人数ながらコアな支持層との双方向コミュニケーションが図られている様子が伺えます90。
YouTube活用の意義
葉梨氏のYouTube活用は、テレビ露出の少ない地方議員が自前メディアで発信力を補完する好例と言えるでしょう。特に法務副大臣当時の国会質問映像(例:2020年7月15日予算委員会質疑71)をそのままアップするなど、国会中継を見逃した人にも活動を知ってもらう工夫をしています。
また、難解な政策テーマについては図表を用いて噛み砕くなど、官僚経験者らしいプレゼン能力を活かした動画作りも目立ちます。こうした地道な発信により、チャンネル登録者数は2021年時点の約200人から2025年には300人超へと緩やかに増加しています(推定)70。伸びは緩慢ですが、コメント欄には固定ファンらしきアカウントも散見され、徐々にではあるが発信力を強化している様子が窺えます。
情報発信の基本姿勢
もっとも、葉梨氏自身はSNSを「選挙のためのツール」というより有権者との対話の場と捉えている節があります。Twitterで炎上を恐れ無難な投稿に終始する一方、YouTubeで長尺の政策談義動画を上げるスタイルからは、「理解してくれる人にじっくり語りたい」という姿勢が読み取れます。
このあたり、炎上上等で攻めた発信をする一部若手議員とは対照的です。おそらく本人の性格もあるのでしょう。実直で腰の据わった情報発信は、派手さはなくとも地元や支持者に対し誠実な印象を与えています。
特に不祥事後の2023年以降、葉梨氏はTwitterでの発信を控えめにする代わりに、自身のコラムをホームページに掲載するなど腰の据わったメッセージ発信に注力しています75。最新のコラムでは物価高騰対策や米価上昇問題などについて持論を展開し、SNSでは伝えきれない熱量を文章に込めています。こうした姿勢は、短文で過激な言葉が飛び交うネット空間では地味かもしれませんが、政治家としての真摯さを感じさせるものです。
情報発信活動の総括
総じて、葉梨康弘議員のSNS・情報発信は「量より質」「広く浅くより狭く深く」を志向しているように思われます。フォロワー数やバズり度では他に見劣りするものの、地元有権者との信頼関係構築や政策通としてのブランディングに一定の役割を果たしています。
今後、国政で再び重要ポストに就くことがあれば、その発信が再注目される可能性もありますが、本人はいたずらに発信力を誇示するより足元の有権者に丁寧に語り掛ける道を選ぶのではないでしょうか。
8. 公約実現度の検証
コロナ対策と経済再生
最後に、葉梨康弘氏が掲げた公約がどの程度実現されているかを検証します。2015年以降の10年間で彼が約束した政策と、その進捗を突き合わせると、着実に前進したものもあれば道半ばのものもあるというのが率直なところです。
まず、直近の選挙公約の柱であったコロナ対策と経済再生については、かなりの部分が実行に移されました。葉梨氏がマニフェストで訴えた「積極的財政出動によるコロナ禍の生活支援」や「国産ワクチン開発への支援強化」は、与党の一員として実現に貢献したと言えます。
具体的には、2020年に実施された1人10万円の特別定額給付金や中小企業への各種給付金は、公約の「国民支援」を具現化したものです35。葉梨氏自身、予算委員会理事としてこの現金給付策を政府に強く働きかけ、補正予算の早期成立を主導しました35。
また、コロナ禍以降に日本が開発した治療薬(抗体薬など)や国産ワクチンの実用化支援についても、党厚生労働部会などで議論に関与し、一定の予算措置が講じられました。社会経済活動再開のためのワクチン証明活用も実際に導入され、公約の方向性と政府施策が合致しています。総じて、この領域は公約から成果への実現度は高いと評価できます。
経済のデジタル化・農業政策
次に経済のデジタル化・強靭化について。葉梨氏はサプライチェーン強化や農業の高収益化、テレワーク推進による地方創生などを掲げました。農業政策では、水田から高収益作物への転換や農産物輸出促進による食料安全保障強化を訴えていましたが、これらは部分的な進展に留まります。
例えばコメ余剰問題への対応として、政府は2022年に飼料米や輸出用米への転換支援策を拡充しました。これは葉梨氏が副大臣時代に提唱した方向性と一致し、米政策の見直しが始まった点で公約実現の一歩です30。しかし食料自給率の向上や農家所得倍増といった大目標は道半ばで、米価は2023年以降も高騰する局面があり備蓄米放出が追いつかない課題も残りました。
デジタル化に関しては、葉梨氏が総務部会長として布石を打った携帯料金引き下げや光ファイバー網整備などが実現しています。菅政権下で進んだ携帯大手の料金プラン値下げや5Gインフラ推進は、総務部会が以前から議論していたテーマであり、葉梨氏の提言が政策に反映された側面があります(部会報告による)。
またテレワーク普及はコロナ禍で一気に進み、東京一極集中の是正にも寄与しました。茨城県南部でも都心への新幹線通勤から在宅勤務への移行が広がり、「東京から適度に近い県南地域の魅力をアップ」という公約の狙いに沿う現象が見られました76。ただし、デジタル田園都市国家構想といった政府の大方針レベルでは、葉梨氏個人の公約というより与党全体のビジョンなので、彼単独の実績とは評価しにくい面もあります。
人口減少・社会保障改革
人口減少・社会保障改革については、最も成果が見えにくい分野かもしれません。葉梨氏は全世代型社会保障の構築や外国人材の活用などを掲げましたが、年金・医療制度の抜本改革はこの10年では実現していません。年金についてはマクロ経済スライド維持など現行制度の枠組みが続き、葉梨氏が期待した大胆な制度変更は行われませんでした。
ただ、彼が訴えていた外国人材の受け入れについては、2019年の入管法改正により特定技能制度が始まったことで一応の前進がありました29。これは葉梨氏自身が法務委員長として成立に関与した法律であり、公約で示した「当面の対策として外国人の受け入れ策を確立」という目標には合致します19。
現在、特定技能2号の対象拡大も検討されており、産業界からは実質的な移民政策との評価も出るほど制度は拡充方向です。この点は葉梨氏のビジョンが国の政策となって進展した事例と言えましょう。
少子化対策では児童手当の拡充(2023年に所得制限撤廃・支給延長が実現)や育休給付の見直し議論など、公約で触れなかった部分も含め前進がありましたが、夫婦別姓や同性婚に関する法改正などジェンダー関連の制度改革は停滞しています。
葉梨氏自身は夫婦別姓導入に「どちらかといえば賛成」でしたが77、党内の慎重論もあり法案提出まで至りませんでした。同様に同性婚については消極姿勢でしたが(反対寄りの回答78)、2023年までに認める法改正は行われず、今後に持ち越されています。これらは葉梨氏個人の責に帰すものではありませんが、公約として掲げた社会制度改革の実現度は低いと言わざるを得ません。
地元インフラ整備の進捗
地元インフラ整備については、部分的な成果が出ています。圏央道(首都圏中央連絡自動車道)は茨城県内で2017年に全線開通し、公約で謳った高速道路網整備は完遂しました22。国道6号線バイパスも順次延伸され、渋滞緩和や物流効率化に寄与しています79。
一方、最重要課題のTX(つくばエクスプレス)延伸は、2023年に国が事業化に向けた調査費を計上した段階で、まだ着工には至っていません。葉梨氏らの議連の働きかけで、延伸予定ルートの自治体間調整や採算見通しの検討が進んではいますが、完成までにはなお時間を要するでしょう。
それでも、かつては夢物語とも言われた県南地域への鉄道延伸が現実味を帯びてきたのは、葉梨氏ら地元議員の粘り強い運動の賜物であり、公約実現に向けた道筋はついたと言えます。
外交・安全保障と憲法
外交・安全保障と憲法については、葉梨氏の掲げた目標は高邁なものの、実績面では限定的です。積極的議員外交という点では、葉梨氏は日韓議連での日韓交流や、自民党外交部会での意見発信などに取り組みました。しかし直接成果として見えるもの(例えば特定の外交交渉をまとめた等)は確認できません。
安全保障政策では、2022年末に自民党が防衛費の大幅増額や反撃能力保有を決定するなど歴史的転換がありましたが、これも党全体の流れであって葉梨氏単独の働きではありません。ただ、彼が所属する保守系議連の活動や地元有権者への説明を通じて、防衛力強化への理解醸成に努めたことは確かでしょう。
憲法改正については、自民党は悲願としながら実現できていない状態が続いています。葉梨氏は憲法審査会幹事も務め、9条改正や緊急事態条項創設に前向きな立場ですが23、この10年間で国民投票に漕ぎ着けることはできませんでした。公約に掲げた「憲法の議論を展開」するという点では、審査会を動かす努力はしましたが、改正発議に至らなかった以上、公約の核心部分は未達成と評価せざるを得ません。
公約実現度の総括
総括すると、葉梨康弘氏の公約実現度は分野によって明暗が分かれます。コロナ対策や経済支援、インフラ整備など短期~中期で成果を出せる分野では着実に結果を出した一方、社会保障改革や憲法改正など長期的・構造的な課題は未達成のままです。
しかし後者については、葉梨氏一人の力でどうにもならない側面も大きく、政権全体の課題と言えるでしょう。むしろ注目すべきは、彼が公約に掲げていなかったテーマでも、新たな課題に対して柔軟に対応してきた点です。
例えば旧統一教会問題への被害者救済策や、急増する特殊詐欺への対策など、時代に応じた政策ニーズに迅速に取り組んだ姿勢は評価できます。公約と実績のギャップを埋めるべく、葉梨氏は自らの役職やネットワークを駆使して問題解決に当たってきました。
その意味で、有権者との約束を完全に果たしたとは言えないまでも、常に公約実現へ向け努力を惜しまなかった10年間だったと総括できるでしょう。
参考資料
公式資料・プロフィール
- 葉梨康弘 - Wikipedia
- 衆議院議員 葉梨 康弘(はなし やすひろ)| 議員 | 自由民主党
- はなし 康弘|公認候補者|2021年 衆院選特設サイト - 自由民主党
- 政策 | はなし康弘 - 自民党茨城第3選挙区支部
国会議事録・立法情報
- 法律案等審査経過概要 第171回国会 日本年金機構法の一部を改正する法律案 - 衆議院
- 法律案等審査経過概要 第171回国会 政党助成法の一部を改正する法律案 - 衆議院
- 衆法 第166回国会 45 犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律案
- 第213回国会 衆議院 総務委員会 第2号 令和6年2月15日 | 国会会議録検索システム
- 決議 第197回国会 1 法務委員長葉梨康弘君解任決議案 - 衆議院
- 食料・農業・農村政策審議会食糧部会 議事録(令和2年10月16日開催)- 農林水産省
- 食料・農業・農村政策審議会食糧部会 議事録(令和3年2月26日開催)- 農林水産省
- 法制審議会 第196回会議 議事録 - 法務省
- 教育未来創造会議 第4回議事録 - 内閣官房
- 復興推進会議(第12回)原子力災害対策本部会議(第36回)議事録
- 第2回 孤独・孤立に関するフォーラム 議事録 - 内閣官房
報道・ニュース
- 新法務大臣・葉梨康弘氏が議論で使ったイラストが色々スゴくて話題に
- 葉梨法相が辞表、後任に斎藤元農相-1カ月で2人目の閣僚交代 - Bloomberg
- 葉梨法相、「死刑のはんこ」発言を一転撤回 与野党から批判・苦言 - 毎日新聞
- 葉梨康弘氏(自民・前)当選確実|NHK 茨城県のニュース - 朝日新聞デジタル
政治資金・スキャンダル関連
SNS・ネット情報
- 葉梨康弘(自由民主党 衆議院議員 茨城3区)(@874ibaraki) / X
- MI Sun @MISun622190 - TwStalker
- #取手市文化祭 - Search / X
- 葉梨康弘(はなし 康弘)- YouTube
- 視聴者からの質問Part9 北朝鮮による拉致被害と人権侵害問題について - YouTube
- 葉梨康弘インタビュー2 他党と自民党の政策の違い - YouTube
- 葉梨康弘の考える、これからの自民党が求められる政治姿勢とは何か - YouTube
- 自由民主党茨城県第三選挙区支部ニュース - はなし康弘公式サイト
以下の資料によりファクトチェック実施済み、本文記事修正済み。