物価高と賃上げの綱引きが続くなか、衆院選では「手取り」を増やす手段として社会保障が前面に出てきた。だが、社会保障は“減税”のように単独で動かせない。医療・介護・年金・子育てを支える給付は膨らみ、負担は保険料と公費(税)に分かれる。どこかを軽くすれば、別のどこかにしわ寄せが出る——その設計図の違いが、各党の政策差として表れ始めている。(厚生労働省)
本稿で扱う主な政党・資料(一次情報中心)
- 日本
- 自由民主党
- 日本維新の会
- 中道改革連合
- 国民民主党
- れいわ新選組
- 日本共産党
- 参政党
- チームみらい
- 厚生労働省(給付と負担の整理)
- 財務省(令和8年度予算案のポイント)
- 野村総合研究所(制度改革と保険料引下げの論点整理)
- TBSテレビ(保険料負担の実例解説)
まず現実:給付は「140.7兆円」、国の予算でも社会保障が最大
厚労省は、社会保障給付費が**2025年度(予算ベース)で140.7兆円(GDP比22.4%)**に達し、高齢化に伴い増加が見込まれると整理する。負担は保険料と公費にまたがり、「給付と負担のバランスの不断の検討が必要」と明記している。(厚生労働省)
国の歳出でも社会保障の存在感は大きい。財務省の「令和8年度予算のポイント」では、社会保障関係費が**39.1兆円(前年差+7,600億円)**とされ、同資料には薬剤給付や高額療養費制度などの見直し(抑制策)も並ぶ。
「負担を下げる」政策は、この巨大な給付・予算の上に立つ。
家計の実感:税より重いと感じやすい「社会保険料」
給与明細の天引きは、税(所得税・住民税)に加え、健康保険・介護保険・厚生年金・雇用保険が積み上がる。TBSの解説は、例示の明細で社会保険料合計が10万円超になりうることを示し、負担の実感が選挙争点化している現状を伝えた。(TBS NEWS DIG)
論点整理:社会保障で争点になる「5つの設計パラメータ」
ここから先は、各党の主張を“賛否”ではなく「制度のつまみ(設計パラメータ)」として整理する。
論点1 保険料を下げるのか、給付を守るのか(両立の条件)
保険料引下げは魅力的だが、実現には制度のどこかを動かす必要がある。野村総研は、社会保険料引下げを安易な「手取り増」の手段に置くのではなく、社会保障制度の大きな見直しの中に位置づける必要があると論じる。(NRI)
論点2 医療費の抑制手段(自己負担/保険適用/受診行動)
医療費抑制は、自己負担増・保険適用範囲の見直し・受診行動の誘導など、多くが“痛み”を伴う。野村総研は、維新が掲げる医療費削減策(例:高齢者負担やOTC類似薬の扱い)に対し、批判や議論停滞で「壁」に当たっていると整理する。(NRI)
一方、政府予算案の資料でも、OTC類似薬や長期収載品、高額療養費制度などの見直しメニューが示されており、現実の政策は「抑制策+配慮」の形になりやすい。
論点3 介護・医療の人材と賃金(“守るほどコスト増”問題)
介護・医療の現場は人手不足が慢性化し、賃上げは必要だが、賃上げは給付費を押し上げる。財務省資料は、令和8年度の社会保障関係費に診療・介護・障害福祉の報酬改定等が織り込まれていることを示す。
各党は「賃上げ」「生産性向上」「給付の重点化」のどれで整合を取るかが問われる。
論点4 世代間・所得階層間の公平(高齢者/現役/低所得/資産)
保険料引下げは主に現役世代に効くが、財源を消費税など全世代負担で賄うと不公平感が出る、という指摘もある。野村総研は、保険料引下げの手段として「給付削減」「高所得層の上限」「公費投入増」など複数の選択肢を列挙し、トレードオフを明示する。(NRI)
論点5 財源と実装(公費=税/保険料/国債、そして執行インフラ)
公費を増やせば保険料は下げられるが、その公費は税か国債で賄う必要がある。厚労省も「将来世代へ負担を先送りしない」観点で給付と負担の検討を求める。(厚生労働省)
加えて、給付や負担調整は「誰に・いくら」を高速に決めて執行する仕組み(データ連携・手続きの簡素化)が要る。
各党の処方箋:どの“つまみ”を回すのか
以下は、各党が公約・政策文書で明示している範囲を要約した(評価ではなく設計の違いの整理)。
自民:賃上げ・給付インフラ+「支出の伸び抑制」と保険料見直し
自民は、医療・福祉・介護分野の賃上げ、若者・現役世代を含む中低所得者の税・社会保険料負担軽減、給付付き税額控除の制度設計、マイナンバー連携を前提にした給付インフラ構築を掲げる。同時に、消費税(食料品の時限措置)に絡めて「社会保障支出の伸びを抑える」「社会保険料等の負担を見直す」と書き込む。(自由民主党)
維新:保険料引下げを前面に、医療・介護の構造改革(生産性・DX)
維新は、社会保険料負担が限界に達しているとの問題意識を示し、医療・介護産業の生産性向上やDX、制度・負担構造の見直しを通じて「保険料を下げる」改革を最重点に据える。(日本維新の会)
ただし、医療費抑制(例:自己負担やOTC類似薬の扱い)は反発も大きく、野村総研は実現上のハードルを具体的に整理している。(NRI)
中道:サービス維持+現役世代の保険料軽減(130万円のガケ等)
中道改革連合は、「130万円のガケ」への対応(国が保険料の一部を支援する仕組み)や、社会保険料の事業主負担軽減など、働く側・企業側の負担を意識した項目を並べる。医療・介護などの処遇改善(公定価格と労務費の適正化)も掲げる。
国民民主:社会保険料の「還付」+壁対策(130万円)+給付範囲見直し
国民民主は「社会保険料還付制度」「130万円の壁突破助成金」など、保険料負担を直接テーマにしたメニューを明示し、医療給付の適正化(給付範囲見直し)にも言及する。(新・国民民主党 - つくろう、新しい答え。)
れいわ:国費投入を増やして保険料を下げる(後期高齢者医療の全額国費等)
れいわは「国のお金を入れて社会保険料を引き下げる」を掲げ、後期高齢者医療制度を廃止して全額国費負担、介護保険の国負担割合引上げ、マクロ経済スライド廃止などを列挙する。(れいわ新選組 衆院選2026 #比例はれいわ)
共産:窓口負担・国保料の軽減、負担増策に反対(公費投入も明示)
共産は、高すぎる窓口負担や国保料(税)の負担軽減を掲げ、OTC類似薬や高額療養費をめぐる負担増策に反対し、国保料引下げに公費投入を行う方針も示す。(日本共産党)
参政:減税と社会保険料削減で国民負担率を下げる(積極財政)
参政は「減税と社会保険料の削減」で国民負担率を35%に抑える目標を掲げ、積極財政と成長を組み合わせる。(参政党)
みらい:社会保険料の増加を抑える“ルール化”+制度の簡素化・滑らか化
チームみらいは、社会保険料負担率の上昇を課題として、たとえば「社会保険料総額の伸びを国民所得の伸び以下に抑える」など、指標(ルール)設定を提示。制度の複雑さ・境界の“崖”をなくす設計(連続関数での控除・給付・料率設計、指数連動の自動改定、API公開等)も打ち出す。(チームみらい)
有権者のチェックリスト(社会保障)
- 保険料を下げるなら、どの給付をどう変えるのか(医療・介護・年金・子育てのどこか)
- 医療費抑制は、自己負担・保険適用・受診行動のどれで行うのか。副作用(受診控え等)への手当はあるか。(NRI)
- 介護・医療の人材確保は「賃上げ」と「生産性向上」をどう両立させるのか。
- 公費を増やす場合、財源は税か国債か。将来世代への先送りをどう避けるのか。(厚生労働省)
- 制度変更の実装(給付の執行、所得・資産把握、データ連携)の工程表はあるか。
比較表:社会保障政策の「設計の違い」
政党 | 重点(何を最優先にするか) | 主な手段(つまみ) | 給付への影響(方向性) | 実装上の難所(想定される論点) |
自民党 | 現役世代負担軽減+医療・介護基盤維持 | 給付付き税額控除、賃上げ、給付インフラ、支出伸び抑制・保険料見直し | 「維持+効率化」寄り | 給付付き税額控除・給付インフラの制度設計、伸び抑制の具体化 |
維新 | 社会保険料引下げ | 医療・介護の構造改革、DX、自己負担・適用見直し提案 | 抑制策を伴いやすい | 受診控え等の反発、制度変更の政治コスト |
中道改革連合 | サービス維持+現役世代の保険料負担軽減 | 130万円のガケ対策、事業主負担軽減、エッセンシャルワーカー処遇改善 | 「維持」寄り | 国支援の財源、対象設計(誰の保険料をどれだけ) |
国民民主党 | 現役世代の負担を直接減らす | 社会保険料還付、130万円の壁対策、給付範囲見直し(適正化) | 適正化(範囲見直し)を含む | 還付制度の対象・執行、適正化の具体(何を見直すか) |
れいわ | 公費投入で保険料を下げる | 後期高齢者医療の全額国費、介護の国負担引上げ、マクロ経済スライド廃止 | 拡充・底上げ寄り | 公費拡大の財源(税・国債)と持続性 |
共産 | 窓口負担・国保料を下げる(負担増策に反対) | 公費投入、国保料軽減、負担増策への反対 | 軽減・維持寄り | 公費投入の財源、制度改定との整合 |
参政 | 国民負担率を下げる(減税+社保削減) | 減税、社保削減、積極財政 | 設計次第で幅広 | 具体策の粒度(どの保険・給付をどう変えるか) |
チームみらい | 現役世代負担の増大を止める(ルール化) | 保険料伸びの指標設定、制度の簡素化・滑らか化、透明化・API等 | 中立(制度設計重視) | 指標の合意形成、制度の一括改修(移行コスト) |